三池崇史監督、冒険しない映画はつまらない!ケニアロケに挑んだ理由
アフリカ・ケニアで国際医療活動に従事する主人公を描いた映画『風に立つライオン』。本作におけるケニアロケを強く希望したのは、メガホンを取った三池崇史監督だったという。「ケニアを舞台に、島田航一郎(大沢たかお)という主人公の冒険を描く話ですからね。環境的にもっと撮りやすい場所、たとえば南アフリカで撮ってしまったら、この映画を作る意味がなくなると思いました」とその理由を語る。
ケニアで日本映画を撮影するという前例はない。撮影隊はケニアの映画業界を調べ、ナイロビ大学でケニア独自の映画を作りたいという志を持つ教授たちと出会い、そこから全て人と人のつながりによって、機材やスタッフを確保していった。撮影隊の安全確保のためにレクチャーが行われ、全員が8本もの予防接種を受け、現地では毎日12~13人の護衛付きでホテルとロケ地を片道2時間半かけて往復した。
しかし三池監督は「島田航一郎のモデルとなった柴田紘一郎さんは、もっと大変だったわけですよね。僕なんて携帯用のウォシュレットを持参していっている、ヤワな奴です。日本の常識が通用しない世界で、当時の医療器具を集めたり古い車を走れるようにしたりと、各部門のスタッフは自分の仕事において島田航一郎の疑似体験をしたと思います。常識やスケジュールを優先して、冒険しない映画って、なんかつまんないですよね」と笑う。
三池作品につきものの「冒険」といえば、過激な暴力&残酷描写。しかし本作では、少年兵たちがケガをする描写などにも過剰さはなく、監督の表現を借りれば「デフォルメしない」撮り方がなされている。「スーダンの内戦のシーンなどでは当然、ある程度の痛みを伴って表現していますが、そこで不必要に強調してR指定がついてしまうことで、中学生がこの映画を劇場で観られないのはもったいないと思ったんです」。
大人から子供へと渡される命のバトンを描いた本作。三池監督自身、3人の子供たちの父親であることも関係するのだろうか。「うちのはもう大人ですけど、自分にとって彼らは観客として明確に存在します。彼らの嗅覚はたいしたもので、これは『チケットをくれ』って言われました。僕の映画ではチケットをほしがらない作品のほうが多いのに」と笑みを浮かべた。(須永貴子)
映画『風に立つライオン』は全国東宝系にて公開中