大林宣彦監督、故・愛川欽也さんをしのぶ。「素晴らしい映画人でした」
19日、映画『あの日の声を探して』に感銘を受けたという大林宣彦監督が「映画とこれからの日本を考える」ティーチインイベントに出席し、劇映画の持つ使命や、15日に肺がんのため死去した俳優の愛川欽也さんの思い出などを語った。
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愛川さんは、1992年に公開された大林監督の映画『私の心はパパのもの』に、斉藤由貴演じる尾堂美々子の父親役として出演。愛川さんが司会を務めるテレビ東京の情報番組「出没! アド街ック天国」にも大林監督が出演したことがあるなど、二人にはゆかりがある。大林監督は「明るく楽しくおちゃめなイメージがありますが、何本も自主映画を撮り、自身で作った映画館で上映するなんて、素晴らしい映画人です」と語ると「きっと内に秘めた切実な思いを持った方なんだと思います。惜しい人をなくした。同世代ですがもっと語りたかったし、やれることもあったと思います」と故人をしのんだ。
映画『あの日の声を探して』については「すごい映画をみちゃった」と第一声をあげつつも「ただ『いい映画です』という感想ではもったいない。映画を使って、平和を未来に伝えるメッセージを残したと言いたい」と断言。作品に込めたミシェル・アザナヴィシウス監督の思いや、アザナヴィシウス監督が原案としたフレッド・ジンネマン監督の『山河遥かなり』を引き合いに出し、戦争を記憶し、伝えるために映画が発明されたという、メディアの本質を強く訴えた。
またドキュメンタリー映画と劇映画との違いについて「映画は記録装置。その意味ではドキュメンタリーは大変な力を持っているが、リアルな記録は、体験者にとっては忘れたいこと。人にとって忘れることも大切なことなので、それはいい。でも同じ過ちを繰り返さないために、後の世代に伝えることが必要なんです」と語ると「その意味では、リアルすぎるドキュメンタリーより、ハラハラドキドキを入れた劇映画の方が多くの人に観てもらえる。『嘘から出たまこと』といいますが、フィクションには真実を伝える力がある」と説明し、会場をうならせていた。
映画『あの日の声を探して』は、第84回アカデミー賞受賞作『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウス監督の最新作。戦争で両親と声を失ってしまった少年が、難民キャンプでひたむきに生きる姿を通して、戦争の悲惨さを描いた物語。(磯部正和)
映画『あの日の声を探して』はTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開