ヴィゴ・モーテンセン主演作『涙するまで、生きる』とは?
演技派俳優ヴィゴ・モーテンセンが主演した話題作『涙するまで、生きる』について、ダヴィド・オロファン監督が語った。
フランスからの独立運動真っただ中にある1950年代のアルジェリアが舞台の本作。軍人だった過去を持つ教師ダリュ(ヴィゴ)は、殺人容疑で裁判にかけられることになったアラブ人モハメド(レダ・カテブ)を山向こうの町に送ることを憲兵に命じられるが、その道中で、モハメドに復讐(ふくしゅう)を果たそうとする一団から襲撃を受け、二人は共に危険を乗り越えていく。数々の短編を手掛けてきたダヴィド・オロファンがメガホンを取り、「異邦人」「ペスト」などで知られる文豪アルベール・カミュの短編小説「客」を基に映画化した。
カミュの原作について「原作はわずか12ページの短編小説で、映画の題材を探していたわけではなく、単なる楽しみのために読んでいた。でも原作に感動し、50年以上も前に書かれたのになぜ、これほど感動するのか考えた。多分それは、原作が今日の世界状況、つまり西欧諸国とアラブ諸国の対立とつながっているからだと思えた」と語った。
今作のテーマは「仲間や友愛だ。今作では、(真の)仲間になるまでの過程がいかに難しく、壊れやすいものであるかを描いている。隠し立てをせずに、ヴィゴ演じるダリュとレダ演じるモハメドが助け合っていくため、映画としては良い出発点から始まっている」と答えた。
短編小説を長編映画にしたことについて「短編小説を長編映画にすることは問題ではなかった。ただ、この短編は道徳の問題に重点が置かれ、それがあまり映像的ではないと思った。そのため、キャラクターの内面の葛藤を、できる限り暴力的な表現にすることにした。だから、原作と全く同じストーリーとはいえないかもしれない。原作では、教師ダリュに焦点が合わせられ、アラブ人は名前もなく、その彼の背景も記されていない。そのため、この二人の関係を膨らませながら、モハメドのシーンを多くさせ、ダリュと対等に描くことにした。実は、脚本の執筆過程では、まだキャスティングしていないヴィゴを念頭に置いて執筆していたんだ」と明かした。
映画は、二人の関係を通して人間同士が理解することの難しさや大切さを描いている秀作だ。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)
映画『涙するまで、生きる』は5月30日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開