インドネシアの大虐殺の被害者家族、加害者と対面したのは“沈黙”を終わらせるため
1960年代にインドネシアで起きた大量虐殺の加害者を追った衝撃作『アクト・オブ・キリング』の第2章にあたるドキュメンタリー映画『ルック・オブ・サイレンス』の試写会&パネルディスカッションが、3日に都内で行われ、来日したジョシュア・オッペンハイマー監督と、主人公のアディ・ルクン氏が出席。製作に至った経緯などを熱く語り合った。この日は同事件の研究者である倉沢愛子氏(慶應義塾大学名誉教授)も同席した。
1965年のクーデター未遂事件の事態収拾にあたったスハルト少将ら軍部が、事件は共産党の仕業として、100万人以上を虐殺したとされるインドネシアの歴史の暗部にメスを入れた前作と本作。加害者に殺害を再演させ、その胸中や事件の実態を明らかにした前作と対をなす本作は、兄を殺された被害者家族のアディ氏が、眼鏡技師の仕事を利用し、加害者たちと対峙(たいじ)する姿を追う。
被害者視点で撮ることはアディ氏の提案だったと明かした監督は、「前作で知り合い、2012年に再会したとき、アディさんは『加害者に会って話したい』と言ったんです。被害者が加害者に直接会いに行くなど、前代未聞で危険すぎると思いましたが、彼の決意は固かった。彼のお父さんは高齢で、家族の名前も息子が殺されたこともわからなくなってしまった。アディさんは『遅すぎた。次の世代に事件を早く伝えなければ』と思ったそうです」と話す。
「怖くなかったですか?」という倉沢氏の問い掛けに、アディ氏は「怖かったですが、事件について口を閉ざすこと、あったと知っていてなかったことにすることを、もう終わりにしたかった。彼らに会ったのは恨みを晴らすためでなく、事件を語るためです。広く語れるようにならないと、子供たちの世代でまた同じことが起きる。幸い、前作はジャカルタで3,000回以上上映され、観客の大半は若者で、事件がオープンに語られ始めている。この事実に感動しています。本作の後、家族の安全のため、わたしは引っ越ししましたが」とほほ笑む。
監督は「2作は補完し合う関係」と説明し、「2作ともカットまでのシークエンスに、沈黙が張り付くように編集した。沈黙の中に死者の存在や、愛する者を奪われた50年という時間を感じてほしいと思いました。これは破壊された人生を悼む詩であり、引き裂かれた社会をもう一度結ぶために語ろうとする映画です」と力を込めていた。(取材/岸田智)
映画『ルック・オブ・サイレンス』は7月4日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開