宮沢りえは一番想像できない女優だった…吉田大八監督が『紙の月』キャスティング理由を明かす
現在開催中のニューヨーク・アジア映画祭で上映された映画『紙の月』について吉田大八監督が語った。
バブル崩壊後の1994年、平凡な主婦で銀行の契約社員・梅澤梨花(宮沢りえ)は、仕事で評価されながらも、自分への関心が薄い夫との関係にむなしさを抱く中、年下の大学生の光太(池松壮亮)と出会い不倫関係に陥り、矛盾と葛藤を抱えながら犯罪に手を染めていく。作家角田光代の同名ベストセラー小説を映画化した。
原作と映画の違いについて吉田監督は「原作には銀行の中の描写はそれほどなく、横領した梨花のモノローグと、さらに梨花の友達と昔の彼が横領した彼女のニュースを見て、自分たちの感じたことをモノローグにしています。彼らもお金の問題を抱えていて、いろいろな人たちがお金と自分の関わりを通して人生を考え、それが幾つかのモノローグとして交錯しています。ただ僕は、モノローグを主体に今作を作ろうとは思わず、むしろヒロインの行動にフォーカスし、銀行内での横領サスペンスとして、それをエンジンに製作しました。そのため梨花の友人や元彼は省き、小林聡美さん演じる隅と大島優子さん演じる相川というキャラクターを新しく作りました」と明かした。
梨花は銀行から預金を横領するが、映画内で彼女を悪く描いていないのは「道徳の教材を作るわけではないので、善悪を映画の中でジャッジする必要は全くないです。だから、むしろ悪いことをしているときほど、スイートな音楽が流れています。でも、彼女の悪事が暴かれる過程では、よりダークな音楽を付けました。彼女が気持ちのまま動いたことで、何が起こって、その責任を彼女がどう引き受けるかということだけが大事でした」と答えた。
宮沢りえのキャスティングについて「女優の中で、どうなるか一番想像がつかなかったから彼女に頼みました。普通は、この女優さんに頼めばこれぐらいの梨花になるだろうな、と想像できるのですが、彼女は候補者の中で一番想像がつかなかった。彼女の舞台は観ていましたが、彼女はきれいで、正直女優としてのイメージもそれほど強くなくて、演技が想像できなかったから、僕は監督として一番やる気が出たんです。そして実際に彼女を演出したら、僕の演出にすごくフィットしていました。僕の細かい演技指導も、どんどん吸収してそれ以上の結果を返してくれました」と称賛した。
映画は、宮沢りえの変貌していく姿が興味深い作品。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)