森山未來、イスラエル帰国後初のドラマ作品で自身を振り返る「盾突く感覚はもうない」
2013年10月から1年間、文化庁の文化交流使としてイスラエルのダンスカンパニーに所属していた俳優・森山未來が、帰国後初のドラマ出演となる「煙霞 -Gold Rush-」を撮り終えての心境を語った。本作は、高畑充希をはじめ、桂文珍、木村祐一ら「オール関西人キャスト」による作品となっている。
原作は大阪在住の直木賞作家で元高校教師の黒川博行による痛快ミステリー小説。しがない高校の講師、教師たちが、理事長・酒井の隠し財産である巨額の金塊をめぐる争奪戦に巻き込まれる物語で、森山は借金を抱え、貧乏暇なしの境遇から抜け出すために怪しいやからたちと一戦を交える主人公・熊谷にふんする。
本作の特徴でもある関西弁特有のノリと、スピーディーなテンポを表現するにあたって、撮影現場では台本はあくまで「たたき台」とされていた。「台本をあまり読まず、筋だけをある程度頭に入れておく。何をしゃべっているかをきちんと伝えることも大事だとは思うんですけど、何かその会話のノリとか空気感、ニュアンスみたいなものを出すという感覚は充希ちゃんと共有していましたね」と森山は“縛られない”撮影スタイルを振り返った。
といった具合に、セリフもどんどん変えられていったというが熊谷のキャラクター設定には“森山自身”が反映されているという驚くべき事実も。森山いわく、「現場に入る前の打ち合わせの段階で、熊谷のキャラクターをどういうふうに成立させようかと監督と話していたときに、ちょうどそのとき奥歯の差し歯が取れていたので、例えば食事をするたびに取れるという設定だったら面白いかもしれないと思って、『監督が面白いと思うんやったら治さないでおきます』とノリで提案してみたら、本当に取り入れられて(笑)」とのこと。偶然から生まれたアイデアが、図らずも歯も治せないほど生活がひっ迫した熊谷の状況を表すのに最も効果的な設定となった。
「オール関西人キャスト」とうたっている通り、本作には芸達者なキャストたちが集結し、「欲望」や「本能」を生々しく体現。その最たるキャラクターを演じたのが落語家の桂文珍だ。森山は桂について、「初めてお会いしたのですが、真面目で、勉強家な方だと思いました」と印象を話し、「朝、新聞を三つ、四つ抱えて現場に入ってこられて、空き時間に目を通して常に落語の噺(はなし)のネタになるものをずっと探されていたりとか。あと、映画の知識がすごく深くて。古い作品から新しい作品まで、とにかくたくさんご覧になっているんですよ」とテレビでは見られない大物芸人の意外な素顔を明かした。
最後に、帰国後の心境の変化について尋ねると「イスラエルではパフォーマンスを構築する際に、『未來はどう思う?』『じゃあ、それをやってみよう』というふうにものすごくプロセスを踏んでいて、それが心地よかったんですが、自分が違うと思ったら、じゃあどうしたいんだということをちゃんと返せなきゃいけない」とイスラエルでの自由なものづくりのスタイル、そこから生じた新たな試練を回想。さらに「これまではどこかで演出家や振付師の方に盾突いていたという感覚が強かったし、その一方で守られているという意識が絶対あったんだと思うんですけど、今はなくなってきていますし、自分で自分の責任というか、ケツを持たなあかんっていう感覚はすごく強くなったと思います」と俳優、ダンサーとしてのあるべきスタンスについて熱く語った。
1年の海外在住を経て、とても30歳とは思えないほど貫禄が増した森山は、先ごろ愛媛県内子町にある芝居小屋・内子座での、自身が企画したダンス公演「Judas, Christ with Soy」を終えたばかり。11月には原作・荒木飛呂彦の舞台「死刑執行中脱獄進行中」が控えており、共同で振り付けも手掛けるなど演者の枠を超えてクリエイターとしての積極的な姿勢を見せる。「煙霞 -Gold Rush-」では、俳優として一回りも二回りも成長した森山のエネルギッシュな姿に圧倒されるはずだ。(取材・文:編集部・石井百合子)
連続ドラマW「煙霞 -Gold Rush-」は7月18日よりWOWOWで毎週土曜夜10:00放送(全4話・第1話無料放送)