『ウィンターズ・ボーン』監督が忘れられなかったベトナム帰還兵とは?
アカデミー賞作品賞にノミネートされた映画『ウィンターズ・ボーン』のデブラ・グラニック監督が、新作『ストレイ・ドッグ(原題) / Stray Dog』について、製作兼編集者ヴィクトリア・スチュワート、撮影監督エリック・フィリップス=ホルストと共に語った。
本作は、ベトナム戦争の退役軍人ロニー・ホールの日常を追ったドキュメンタリー。ハーレーダビッドソンを乗り回すロニーは、メキシコ人のアリシアと犬と共にミズーリ州の田舎町で暮らしているが、帰還後何十年たった今でもPTSDに苦しみセラピーに通いながら、同じ苦しみを味わう帰還兵たちとの交流を図ったり、アリシアの子供たちを米国に移住させることを検討したりする。
『ウィンターズ・ボーン』にも出演したロニーを題材にしたのは「あの映画で初めて会ったとき、彼はちょうどメキシコ人のアリシアに一目ぼれしたころで、犬、隣人、友人など慕ってくる者の世話をしていたの。でも製作後、ニューヨークに戻ったわたしと、製作者のアン・ロッセリーニは、ロニーのことがしばらく忘れられなかった。実際にはあのときの会合が全て今作に反映されたけれど、当時は彼を題材にした映画を撮ろうとは思わなかった。でも彼が毎年帰還兵たちのセレモニーに参加していることを聞いたり、何度か彼を訪ねたりするうちに、撮影を続けたくなったの」とデブラが明かした。
2年半の撮影の編集について、ヴィクトリアは「わたしはプロデューサーとしても撮影に参加していたため、どの過程で今作を終わらせるかがとても難しかった。監督から興味深いことが起きていると言われるたびに撮影を続けさせて、ロニーを追う必要もあった。その後撮影が終了し、数か月かけて編集で8時間にまとめ、徐々にストーリー構成を考えながら98分に縮めたの」と語った。
長期間の撮影で、ロニーやアリシアに撮影拒否されることはなかったのか。「特に寝室では彼らの信頼を得る必要があった。だから彼らの寝室での会話を撮影していたときは、立ち入ったことは聞かずに、あえて彼らの家族のようにその場に居ただけだった。それからは彼らと共に夜を過ごし、朝も共に起きることもあったくらいに信頼を得ることができたが、僕自身もそのような撮影は初めてだった」とエリックが振り返った。
映画は、ちょいワルオヤジのイメージを覆し、とことんまで人の面倒を見るロニーに、真のアメリカンスピリッツを感じた。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)