サー・ベン・キングズレー、コイシェ監督最新作で名言「俳優、夫、親として良いお手本でいること」
『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』などで知られるイザベル・コイシェ監督最新作『しあわせへのまわり道』に出演した名優ベン・キングズレーが、同監督の唯一無二の魅力について語った。
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The New Yorker に掲載されたエッセイに基づく本作は、ニューヨークで著名な書評家として人生を謳歌(おうか)していた矢先に突然夫に捨てられたアメリカ人の中年女性ウェンディが、インド人タクシードライバー・ダルワーンとの出会いを経て自分を取り戻すまでを描いたハートフルなドラマ。ダルワーンにふんしたキングズレーにとって、コイシェ監督、ウェンディ役のパトリシア・クラークソンとは『エレジー』に続いて2度目のタッグとなる。
キングズレーはアカデミー賞主演男優賞を受賞した『ガンジー』をはじめ、『死と処女』『砂と霧と家』など数々の名作に出演し、2001年にナイトの称号を与えられた誉れ高き名優だが、彼が2度目のコンビを組むほどコイシェ監督にほれ込んだ理由をこう語る。「彼女は、女性だけでなく男性の弱さや優しさを描くのに非常にたけた監督だと思うんだ。それに彼女の作品に出ると、僕はカメラの前で自分のか弱い、繊細な面をさらけ出すことができる。もしこれが男性の監督だったら、そういった面を隠して映画を作ろうとすると思う。男性の監督の中には、男性らしさというものを、過大評価して表現することが多いからね」。
さらに、「それとご存知の通り、彼女は自分でカメラマンもする。だから、彼女がレンズを通して見ているものは、そのまま観客が見ることになる。だからこそ、彼女はそれぞれのショットを非常に注意深く選ぶし、それぞれのショットのムードや雰囲気を非常に注意深く作り出す」とカメラマンとしての資質についても賛辞を送っている。
キングズレーが演じたダルワーンは敬虔なシク教徒であり、母国で理不尽な仕打ちを受けアメリカに亡命したという複雑なバックグラウンドを持つ人物。日々人種差別を受け、一筋縄じゃいかない人生を生きているが、離婚でボロボロになったウェンディには自動車レッスンを通して叱咤(しった)激励し、新天地でカルチャーギャップに戸惑う新妻にも辛抱強く接する、実に紳士的な男性だ。キングズレーは、このキャラクターについて「彼は、苦痛を体験し、大変な思いをしてきた人なんだと思う。だからこそ人を思いやり、優しくなれるんだと思う。それから、彼には失ったものがある。だから人を大切にするんだと思う。喪失というのは、時に人をより良い人間にしてくれる場合があるからね」と「喪失」が、ダルワーンのキーワードになっていると説明する。
本作にはそんなダルワーンの「人生で何が起こっていようと、路上には持ち込むな。今を生きる君の人生だ。大切にしてほしい」といった名ゼリフがちりばめられているが、「人が絶望から立ち直るときに必要なこととは?」という問いに対しては、「そうだな……ふむ」と長く沈黙したのち、「僕はアドバイスが得意な方でもないんだ。まったくね。その代わりと言っては何だけど、俳優、夫として、親として、僕が常に心掛けていることは、自分が周りの人間にとって良いお手本をなるということ」と度量の大きさを感じさせる名言を放った。(取材・文:編集部 石井百合子)
映画『しあわせへのまわり道』は8月28日より全国公開