中谷美紀の“ほころび”がチャーミング!オンオフありすぎ女主人公に共感
中谷美紀が完璧主義の気難しい職人気質を見せながらも、私生活に関してはかなりのダメ人間な洋裁店の女主人・市江を演じた映画『繕い裁つ人』。メガホンを取った三島有紀子監督は、なぜ中谷に市江を演じさせようと思ったのか。オンオフありすぎな女主人公に込めた思いを語った。
本作は、『しあわせのパン』『ぶどうのなみだ』などで知られる三島監督が、池辺葵の同名コミックを、自身が8年間温めてきた構想をブレンドさせながら実写化した作品。祖母が始めたこだわりの洋裁店を受け継いだ頑固な2代目店主・市江が、「人生で一番似合う服」を客に仕立てながら、彼女の服を愛する人々とつながっていくさまを描く。
三島監督が「いつか仕立屋の映画を撮りたい」と思ったきっかけは、数少ないオーダーメイドのスーツを生涯の友として大切に着ていた父親にあった。「職人の“誇り”をまとっている」という父親の言葉が忘れられず、ここまで走ってきた。映画化は当初、資金繰りなどで難航したが、池辺のコミックと運命的に出会い、三島監督の思いが見事にリンクした。「この中で描かれている職人・市江の生き方がとても魅力的で、市江の人生を映画の中で共に生きたいと思いました」と述懐する。
そして、市江役は彼女以外には考えられなかったと、監督が話すのは中谷美紀だ。まるでスポットライトのように自然光が差し込む洋裁室で、凛(りん)とした佇まいでミシンがけに勤しむその姿は、まさに孤高の職人像。ところが、その人を寄せ付けないオーラは、本編が始まってからすぐに吹き飛んでしまう。「パジャマ姿で登場したり、紅茶の入れ方も信じられないほど不器用だったり、職人らしからぬ市江像に中谷さんも最初は戸惑われていました」と三島監督は語る。
それでも中谷に、オンオフの落差が激しい市江を演じさせたのは、「360度どこから見ても完璧な中谷さんから“ほころび”を引き出すことによって、より魅力的な市江に出会えると思いましたから」と説明。「服に関してはセンスもテクニックも文句なし、お客様が何を求めているかもちゃんと見える。でも、それ以外はまるでダメ。『あ、見られちゃった!』みたいな“ほころび”が随所に出てくるところが、彼女と観客の距離を縮め、寄り添えると思ったんです」と目を輝かせる。
「メイキング映像などで中谷さんの“ほころび”の部分がどれだけまぶしてあるかを見つけるのも楽しいです。現場で『えー!』と驚く中谷さんのチャーミングな一面がたくさん見られますよ」とちゃめっ気たっぷりに語る三島監督。映画に対して人一倍ストイックなはずなのに、「何でも聞いてください」と門を開き、気さくに招き入れてくれる大らかさに、いつの間にか心がもみほぐされている。三島監督は“距離を縮める職人”かもしれない。(取材:坂田正樹、提供:ポニーキャニオン)
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