「アラバマ物語」で世界的作家となったハーパー・リーを描いたドキュメンタリー映画とは?
1960年に出版された小説「アラバマ物語」でピュリツァー賞を受賞した作家ハーパー・リーを描いたドキュメンタリー映画『ハーパー・リー:フロム・モッキングバード・トゥ・ウォッチマン(原題) / Harper Lee: From Mockingbird to Watchman』について、メアリー・マクドナー・マーフィー監督が語った。
本作は、「アラバマ物語」の続編にあたる小説「Go Set a Watchman」が、前作から55年ぶりに出版される過程と、前作「アラバマ物語」が出版に至った経緯をたどり、ハーパーの家族と彼女の親しい友人や仕事仲間へのインタビューを通して、彼女を浮き彫りにした作品。
今年、「Go Set a Watchman」の原本が発見され出版されたが、ハーパーは出版への懸念はなかったのか。「出版社ハーパーコリンズの社長マイケル・モリソン、ハーパーの弁護士トンジャ・カーター、そしてハーパーの親友ジョイ・ブラウンによると、『Go Set a Watchman』を出版させるために、彼女を説得する必要はなかったそうなの。その後、わたし自身も6月30日に(アラバマ州)モンローヴィルで彼女に会って、彼女にこれまで『Go Set a Watchman』が出版されることを考えたことがあったか聞いたら、『ばかなことを言わないで、もちろん、考えたことがあるわ』と話してくれたの」と明かした。
もし、名作「アラバマ物語」が、主人公の少女スカウトの観点でつづられていなかったら、全く異なった作品になっていたのではないか、との質問に「全くその通りだと思う。スカウトがわたしたち読者の手を取って、あの困難な(黒人差別の)環境へと導いていく。大人になったスカウトが子供の目線で振り返っているの。だから、スカウトの視点でなかったら、全く違っていたわ」と答えた。
「アラバマ物語」は公民権運動最盛期の少し前の1960年に出版され、南部の人々に影響を与え、運動を推進させたが、現在でも同じような人種差別問題を抱えている点について「『アラバマ物語』が公民権運動に火を付けたように、世界中のさまざまな人種と国々の間で、耐えられないことや不公平なことがある限り、この本は人々に認識され、その内容が伝えられることになると思うわ」とその価値を評価した。
映画は、わずか1作だけで世界的な作家となったハーパー・リーの感性や価値観を感じ取れる作品だ。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)