映画評論家・町山智浩が巨匠ビリー・ワイルダー作品に見え隠れするアメリカの影を解説
映画評論家の町山智浩が13日、TOHOシネマズ日本橋で行われた「第三回 新・午前十時の映画祭」の人気イベント「20世紀名作映画講座」に出席、「せつなく美しいラブ・コメディーに隠されたアメリカの影」をテーマに、アカデミー賞作品賞を獲得した名作『アパートの鍵貸します』(1960)の裏側を解説した。
「ロマンチックコメディーの名手」と称されることの多いビリー・ワイルダーは、三谷幸喜、キャメロン・クロウなど数多くの映画人に多大なる影響を与えた往年の名監督。「ワイルダーの作品は『深夜の告白』『地獄の英雄』『サンセット大通り』『お熱いのがお好き』、それから『アパートの鍵貸します』あたりは観てもらいたいですね」と語る町山は、「この映画は(厳格なキリスト教徒の意見を取り入れて生まれた検閲制度)『ヘイズ・コード』の2つに触れている映画なんです。ひとつは『婚外交渉』。もう一つは『自殺』。ビリー・ワイルダーはアメリカのタブーに触れたダークな部分を楽しいラブコメの中に入れ込みました」と説明。
その背景として、「彼のお母さんがアウシュビッツで殺されたからですよ」という町山は、「お母さんがいたオーストリア・ハンガリー帝国は、ユダヤ人の人権を認めると言ってユダヤ人を呼び寄せたのに、その後、ユダヤ人虐殺に加担した。それでは人を信じられずに、シニカルな視点になりますよね。ワイルダー作品には絶望を抱えた暗さがある。それが他のコメディー作家と違うところですね」とコメント。
ハリウッドのスタジオシステムの中で徹底的に自分のイメージをコントロール。アドリブを排除し、完成度の高いウエルメードな映画を作り上げたワイルダー。町山は、くしくもそのスタイルが現代の映画に復活していると指摘する。「現代のハリウッド映画にはVFXがあって、先にCGで全部作っているから、勝手なアドリブ演技は許されないし、カットも最初に予定した通りに撮影する。ハリウッドも昔に戻っているんですよ」と付け加えた。
今年4月4日から全国54スクリーンで上映がスタートした「第三回 新・午前十時の映画祭」は、9月4日に22週間の上映を終え、動員23万1,468人、興収2億2,572万6,900円を記録。過去2年に比べても非常に好調に推移している。(取材・文:壬生智裕)
「第三回 新・午前十時の映画祭」は全国公開中
『アパートの鍵貸します』は12月21日(Aグループ)、2016年1月2日(Bグループ)から公開