園子温「エンタメ映画の方が無理をしていた」…福島の立ち入り禁止区域で撮った新作をトロントでお披露目
第40回トロント国際映画祭
現地時間16日、第40回トロント国際映画祭で『地獄でなぜ悪い』や『新宿スワン』などで知られる園子温監督の新作『ひそひそ星』(日本公開2016年)の公式上映が行われた。本作は、宇宙宅配をするアンドロイドの鈴木洋子がさまざまな星に降り立ち、かつて人々でにぎわった街や海辺に荷物を届けていくさまをモノクロの映像で描いたSF作品。2014年10月に東日本大震災による原発事故の傷痕が色濃く残る福島県の富岡町・南相馬・浪江町で撮影され、先立って行われた14日のトロントでの上映がワールドプレミアとなった。
2014年に園自ら設立したシオンプロダクションの第1回作品でもあり、上映後のQ&Aでは「美しい映画」「傑作です」と感想を伝えるトロントの観客が居たほか、近年の作品とは作風が違うことについてキャリアの変化を問う声も。園監督は「最近僕が作ったエンタメ映画の方が、無理をしているというか、一生懸命自分ではないものを作っていたという感じです。20年以上前のこの脚本の方が素直に自分らしい映画だったんですけど、逆転しちゃったんですね」と説明。トロントから帰国し次第、福島の無人地帯で世界中のアーティストの協力の下で開催している“絶対誰にも見られない展覧会”のドキュメンタリーを含む2本を撮るほか、来年も2本撮影予定だといい、「また撮りすぎって言われるかもしれないけど」と笑った。
立ち入り禁止区域で撮影をしたことについては、「当時(脚本を書いた20年以上前)もしも作っていたならば、人類が災害や歴史的な失敗を繰り返した後に廃墟化したというイメージのロケハンをしたと思うのですが、今回本当に人類が失敗を起こした場所がすでにあるということで、そこを使うことが正しいだろうと思いました」と園監督。「そこを無理やり追い出された人たちもこの映画に出演していて、そういう“今”を切り取る、今撮るんだったらこの現代を撮影するということが一番望ましいと思いました」と込めた思いを明かした。
この日は、園監督の妻で、主人公の鈴木洋子役を務めた女優の神楽坂恵も登壇し、「夫婦で作りました。わたしは役者だけでなくスタッフとしても携わっていて、本当に大切な作品です」とあいさつ。「『ひそひそ星』には園監督の『希望の国』(2012)という原発の映画でモデルになった家族の方々も出ていて、それをトロントでたくさんの方々に観てもらえてうれしかったです。彼らも映画になって観てもらえることを喜んでいます。もちろん悲しいことですが、“残る”ということが大事なので、たくさんの人々に観てもらえたらと思います」と語って大きな拍手を受けていた。(編集部・市川遥)
映画『ひそひそ星』は2016年公開
第40回トロント国際映画祭は現地時間20日まで開催