介護する人の心が壊れないように…認知症問題をユーモラスに捉える
26日、東京・新宿K's cinemaにて、認知症の母とその娘の姿をユーモラスな視点で追ったドキュメンタリー映画『徘徊 ママリン87歳の夏』初日舞台あいさつが行われ、田中幸夫監督が登壇、作品への思いを語った。
本作の主人公は、大阪に住む87歳の母「ママリン」と55歳の娘。昼夜問わず徘徊(はいかい)を繰り返す認知症の母を、後ろからそっと見守る娘は、徘徊記録をデータとして残したりするなど、当初はつらかった介護をユーモラスに捉えるようになった。そんな日々を、『未来世紀ニシナリ』などの田中監督がリアルに映し出している。
認知症というテーマを扱っているため、重くなりがちだが、「これは認知症の映画ではなく、母と娘の普遍的な物語として撮りました。人間の関係を、娘の覚悟を描きたかった」という田中監督。「きれいな構造の中に、不条理ともいえる母と娘の大阪漫才が繰り広げられている映画」として、観客が大笑いできるものに仕上げたつもりだと話す。
実は本作を撮影した後、母の徘徊はめっきり減ったため、娘は穏やかな日々だが、「歩く機会が減ったから太ってしまった。ダイエットができなくて困っている」と笑っていたそうだ。
田中監督は、「娘さんは、最初すごくしんどかったと思う。でも母のよくわからない世界を面白いと思って寄り添えば、お互いが精神的に壊れないですむという彼女なりの判断」と言い、「認知症を隠すのではなく、表に出して、皆が見えるところでどうするか。それがないと先に進めない。本作を通じて、タイトルの徘徊という言葉が持っている空気感が変われば、普通の言葉として一般的にも受け入れられていくと思う」と静かに語っていた。(取材・文:藤井郁)
映画『徘徊 ママリン87歳の夏』は全国公開中