アウシュビッツ“死体生産工場”の惨状を収めた70年前の写真に結びつく重要映像
1944年、アウシュビッツ収容所で同胞のユダヤ人の死体処理に従事した特殊部隊ゾンダーコマンドに焦点を当てた衝撃のドラマ『サウルの息子』から、ネメシュ・ラースロー監督が本作を製作するにあたり多大な影響を受けた、実在のゾンダーコマンドが決死の覚悟で“死体生産工場”と化している強制収容所の様子を撮影した4枚の写真を彷彿させる重要なシーンが公開された。
今回公開された本編映像では、強制収容所での大量虐殺という惨劇を外の世界に知らせようと内部の撮影を試みる仲間のため、主人公サウルはわざと戸口に立ち、彼の姿を隠そうとする。仲間はなかなかシャッターを切らず、すぐ目の前で大量の遺体が焼却されているため、立ち込める大量の煙を目の当たりに、呆然と立ちすくむサウル。その煙の中から、ナチスの部隊がサウルたちに近づいてくる……とまさに間一髪でカメラに気づかれず難を逃れるところで終わっている。
このシーンこそ、本作のインスピレーションの源となったアウシュビッツの惨状を伝える貴重な4枚の写真と結びつくものであり、「死や残虐さに直面したとき、どんな視点をとるべきか? 我々はこれを、サウルが収容所内を旅する間、突然、ほんの一瞬だけ、虐殺の光景を構築することに参加するという形で、映画の中心部分に入れ込んでいます」とラースロー監督が語っていた部分である。それらの写真には、「これを世に広めてくれ、写真さえあれば皆信じてくれるはず、そしてもっと撮影用のフィルムを送ってくれ」と書かれた手紙も添えられており、撮影者の思いが時を経て、こうしてラースロー監督の目に留まり広められようとしていることに何とも言えない気持ちになる。
本作は、第68回カンヌ国際映画祭グランプリ、第73回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞を獲得し、第88回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされている。(編集部・石神恵美子)
映画『サウルの息子』は1月23日より新宿シネマカリテほかにて全国公開