三大映画祭制覇のジャ・ジャンクー監督、中国の急激な経済成長の影響を描きたかった
映画『山河ノスタルジア』の公開を来月に控えた3日、ジャ・ジャンクー監督と主演女優チャオ・タオの来日記者会見が都内で開かれ、ジャ監督は「中国の急激な経済成長による社会の変化が、人々の心や感情にもたらしたものを描きたかった」と制作の動機を語った。
【写真】25歳~50歳まで演じたチャオ・タオ&中国の巨匠ジャ・ジャンクー監督
本作は、ベルリン、カンヌ、ベネチアの三大映画祭全てで受賞を果たしたジャ・ジャンクー監督の最新作。1999年、2014年、そして2025年の三つの年を舞台に、チャオ・タオ演じる小学校教師タオの26年間にわたる半生をつづった物語だ。
「目の調子が悪い」とサングラス姿で登場したジャ監督は、「皆さんの目からは、前作の『罪の手ざわり』と本作は全然違うと映るかもしれないけれど、実は同じものを違う形で撮っています。『罪の手ざわり』では中国社会の急激な変化を暴力の顕在化という形で描いたけれど、『山河ノスタルジア』では人々の心や感情の変化を表現している。失ったものもあれば変わらないものもある」と説明。さらに、「1999年から始まる物語というのは大事なポイントで、2回目の急激な経済改革にあたる年だと考えています。僕より上の世代に向けてではなく、自分が経た時間と重ねてこの作品を撮ろうと思った」と本作の時代設定の意図を明かした。
一方、チャオは「25歳から50歳までの一人の女性を演じるのは、私にとって大きなチャレンジでした。2000年にジャ監督の『プラットホーム』という青春群像劇に出演させてもらって、2011年にはイタリアのアンドレア・セグレ監督の映画で母親役も経験しました。この二つの役が、今回の役作りの上でもとても参考になりました」と裏話を紹介。物語の三つの場面の間を埋めるために、空想してタオの伝記まで書いたそうだ。
「人間が生まれて、去っていく。縁があって知り合ったり、病や老いに苦しんだりといった、基本的な営みが生命力を生むんだ。孤独だけど、どこかに生命力がある。そういうものを表現したかった」と語るジャ監督は、最後に「人生には、年齢を重ねないとわからないことも多いけど、映画は人生を経験するチャンスになる。だから若い人たちにもぜひ観てほしいです」とメッセージを残した。(取材・文:タナカトシノリ)
映画『山河ノスタルジア』は4月23日よりBunkamura ル・シネマほか全国順次公開