生きづらい世に風穴を!パレスチナ革命に身を投じた監督・足立正生の思いとは
1960年代に“アングラの旗手”と知られ、その後、パレスチナ革命に身を投じた伝説的映画監督・足立正生の約10年ぶりの監督作『断食芸人』が公開となり、27日、東京・渋谷のユーロスペースで行われた初日舞台あいさつに、主演の山本浩司と足立監督が出席し、本作に込めた思いを明かした。
本作はフランツ・カフカの短編小説「断食芸人」を原案に、現代日本のとあるアーケード商店街に突然現れた、座り続けるだけで何も語らず食べようともしない男(山本)に、通行人や警察、メディア、医者、宗教者、興行師など、様々な人が群がり、やがてその男が「断食芸人」として見世物に仕立て上げられていく転末と、周囲の人々の狂騒をシュールに描き出す。
主人公・断食芸人を演じた山本は「セリフもほとんどなく、取り立てて何をやったという実感もないんです」と謙遜しつつ「ただひたすら何もしないでそこにいる、それを徹底してやる、そういう役だと思いました。僕は『ボーっとしていてくれ』と言われたら、本当にずっとボーっとできるタチなので」と自身の役どころを振り返り「それでよかったんでしょうか?」と足立監督に視線を送る。
問いかけられた足立監督は「それはもう、圧倒的でした」と山本に賛辞を返したあと、本作の意図について「一見、好き勝手をやっているように観えるかもしれません。でも根底には3.11の原発事故以降、何を言っても軽々しい言葉になってしまう、糞づまりのような状況を、どうしたらこじ開けられるかというテーマがあった」と明かし「山本くん演じる、人物にもなりえないような存在が、言葉を発しないことで、逆に表現する自由みたいなものを、生きづらいと感じている若い人に観てほしかった」と静かな口調で語る。また「カメラって恐ろしくて、役者の存在感をみんな映してしまう。あえて撮影現場では、何も言わなかったから(役者の)皆さんは大変だったでしょう」と俳優陣をねぎらった。
この日は、流山児祥、井端珠里、伊藤弘子、本多章一、愛奏、守谷周人、安部田宇観ら、アングラ演劇界の巨匠から本作がデビューの新人まで、個性豊かな共演者も登壇。流山児は「足立監督は、本当に自由奔放に本作を作ったなあと、改めて思いました。このシュールレアリズムは世界に通じる。足立さん、やっぱりすごいです」と会場を盛り上げ、大きな拍手を浴びていた。(取材/岸田智)
映画『断食芸人』は東京・ユーロスペースで公開中 ほか全国順次公開予定