ピクサー初のアジア人監督が感じたプレッシャー 異例の製作期間を支えた歴代監督
ディズニー/ピクサーの新作『アーロと少年』の監督ピーター・ソーンは、ピクサー長編作品初のアジア人監督だ。それゆえに大きなプレッシャーを感じていたという。ソーン監督は製作当時のことを「初めは本当に動けなくなるような気持ちに襲われました」と振り返る。
彼が監督に就任した経緯も、通常のピクサーの監督とは少し異なる。2014年秋、ピクサーは、当初監督を務めていたボブ・ピーターソンから急きょバトンを引き継ぐ形で、ソーン監督が本作のかじを取ることを発表した。この時点でアメリカ公開まで残り約1年。ソーン監督いわく、彼が関わってからの製作期間は約2年だったため、その1年ほど前から携わっていることになるが、それでも5年かけて作られた『インサイド・ヘッド』(2015)のように長いスパンで、監督たちが一つの作品を作り上げるピクサーとしては異例のことだ。
「熱を発しているような病気の赤ちゃんを渡されたようなものだったんです。なんとかして形にしなくてはというストレスも大きかった」。思い詰めるソーン監督に手を差し伸べたのも、ジョン・ラセターを含む歴代のピクサーの監督たちだった。「ピーター、悩んでいることがあったらいつでも話して」「相談に乗るよ」さまざまな人たちの助けを借りながら、病気の赤ちゃんを必死に助けようとするお医者さんのようにピクサーが一丸となって、本作は作り上げられた。ソーン監督は「ピクサーはボスたちが監督なので、みんなが映画づくりという困難な旅を経験済みなんです。そういった意味でも素晴らしい環境なんです」と語る。
製作スタッフも監督の思いにこたえ、彼を支え続けた。「多くのスタッフが私生活を犠牲にしながらも本当に頑張ってくれたので、出来上がったときにはすごくみんなで感動しましたね。心からの感謝を述べたかったんです」。インタビュー中、監督は彼らへの感謝を何度も口にしていた。監督の思いは、作品のエンドクレジットの中で流れる、ある言葉にも表れている。
彼らの熱い気持ちが詰まった『アーロと少年』は、迷子になったひとりぼっちの恐竜・アーロが人間の少年と共に、自分の家に帰るために旅をする物語だ。漫画的に描かれたアーロと相反するように、自然をより美しくリアルに描くことで、アーロの異質さを際立たせ、彼が置かれた環境が一匹では生きていけない過酷なものであることを見事にアピール。また全体のバランスもうまくとり、製作が一転二転した厳しい環境の中で作られたとは思えない、圧倒的な映像美を見せつける。アニー賞でアニメーション効果賞を受賞したのも納得の出来栄えだ。(編集部・井本早紀)
映画『アーロと少年』は3月12日より全国公開