「魔法のステッキ」が引き起こす負の連鎖…36歳の天才監督の先生はタランティーノ&アルモドバル
架空の日本の魔法少女アニメをモチーフにしていることでも話題のスペイン映画『マジカル・ガール』のカルロス・ベルムト監督が来日した際に、ペドロ・アルモドバル、クエンティン・タランティーノという2人の鬼才から学んだ映画づくりの持論を明かした。
【写真】日本のアニメをモチーフにした『マジカル・ガール』衝撃の劇中写真
「魔法のステッキ」と言えば、映画やアニメにおいて幸福や奇跡を引き起こすアイテムとして使われることが多いが、本作では結果的に悲劇をもたらすものとして描かれている点が印象的だ。映画の主な登場人物は、白血病に侵され余命宣告を受けた少女アリシア、その父親ルイス、心に闇を抱えた美女バルバラ、そして刑務所を出所した初老の男性ダミアン。「魔法少女ユキコ」のコスチュームが欲しいというアリシアの小さな願い事が、決して交わることのないであろう人々を結び付け、負の連鎖を生み出していく。
恐ろしくも切ないストーリーについて、「初めは脅迫の連鎖を描きたいと思っていた」と切り出したカルロス監督。「スペイン版のポスターには『欲望に気を付けろ』というキャッチコピーが書かれているんだけど、一人の人間が何かの欲望を満たそうとすることで、第三者を脅迫する。そしてその第三者は事態を何とかしようとして、また別の誰かを脅迫する……というふうにね。魔法少女のコスチュームを欲しがる娘の欲望をかなえるためにルイスはバルバラを脅迫し、負の連鎖を生んでいくんだ」と経緯を説明する。
脅迫の連鎖にのみ込まれていく登場人物たちのバックグラウンドはいずれも断片的にしか明かされていないが、それぞれ過酷な現実と戦っており、ある人物にとっては天使であり、ある人物にとっては悪魔でもある。そんな観る者の好奇心を掻き立てるキャラクターづくりの秘訣について、カルロス監督は「登場人物をつくり上げていくときに必ずやることは『彼らを判断しない』こと」だという。「人間には常に光と影の部分があるものだよね。例えば、ルイスのように物語の1章ではヒーロー的な役割だった人物が2章で悪人になったとしても、それには理由があるわけで、それがいいとか悪いとか、映画をつくる側が判断しないということだ。キャラクターの矛盾に際し『自分もそうなるかもしれない』と思う瞬間こそが自分にとってはすごく重要で、それを学んだのがクエンティン・タランティーノとペドロ・アルモドバルだ」とモットーを語るとともに、彼に大きな影響を与えた2人の監督の名前を挙げた。
また、カルロス監督は自身の作風について「僕の作品は、一つのシーンが非常に長い。それに“間”がある」と認識しており、それが日本映画から受けた影響であることを告白。これまでにも度々日本を訪れており、大の親日家、日本アニメオタクでもあるカルロス監督は、「勅使河原宏監督の『砂の女』と、新藤兼人監督の『裸の島』が最高!」と少年のように目を輝かせながら日本への愛を語った。(取材・文:編集部 石井百合子)
映画『マジカル・ガール』は3月12日よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA ほかで公開