石井岳龍監督が語る女優・二階堂ふみの魅力「表情にゾクゾクさせられる」
老作家と人の姿をした金魚の恋を幻想的に描いた室生犀星原作の映画『蜜のあわれ』の監督を務めた石井岳龍監督が、本作の主演女優・二階堂ふみを「どんな役でも自分のものにしてしまう幅の広さの持ち主」と近年、飛ぶ鳥落とす勢いの二階堂の魅力を語った。
石井監督が二階堂と仕事をするのは本作が初。「『ヒミズ』や『味園ユニバース』など、どれを観ても役を完全に自分のものにしています。素晴らしい女優だと思っていたし、今回のタイミングをうれしく思っています」と石井監督。二階堂も「初期作品の『狂い咲きサンダーロード』から近年の『シャニダールの花』まで、石井監督の映画には凄みがあって、映画人としてとても尊敬しています」と目を細める。
本作で二階堂が演じる赤子は人の姿をした金魚。その役作りについて、石井監督は俳優本人の感情表現を重視し、「まず一度演じてもらい、『ここをもっと金魚っぽく』など話し合いながら作っていきます。彼女はバレエをやっていたので美しい動きをするし、アイデアもたくさん出してくれました」と語る。二階堂は現場の雰囲気に魅せられたという。「全員が同じラインに立ち、一緒に作ろうという雰囲気なんです。映画づくりを全身で感じられる現場でした」。
身体表現のみならず、石井監督は二階堂の多彩な表情にも驚かされたという。「次々に変わる表情にも驚かされました。繊細な表現で少しずつ動く赤子の内面も演じ分けていた。現場でゾクゾクしたし、心の中で何度もガッツポーズをしていました(笑)」。二階堂は赤子を演じるにあたり、「感情や思考が、言葉より先に体の動きとして出てくる方が赤子らしいと思った」と言い、セリフまわしではなく表現に重点を置いたと明かす。
撮影を通し日々変化する二階堂の才能を目の当たりにした石井監督は、「会うたびに違ったオーラや女性力を発していて、それが彼女の大きな魅力だと思います。役を引き寄せるのもうまいし、何より映画の仕事を大切にしている女優さんなのでまたぜひご一緒したいですね」。一方、二階堂もすっかり石井ワールドに魅せられたようで、「たくさん経験を積み、培ったものを次にご一緒したときに石井監督に見ていただけるようがんばりたいと思います」と意を新たにする。
昭和半ばのノスタルジックな世界の中、幻想的な恋物語をユーモアを交えて描いた本作は、石井監督、二階堂にとって新境地を開いた作品といえるだろう。(取材・文:神武団四郎)
映画『蜜のあわれ』は新宿バルト9ほかにて4月1日より全国公開