阿部寛&樹木希林、俳優になるとは思っていなかった 真木よう子は自ら脚本書き芝居
昨年に続き、今年もカンヌ国際映画祭「ある視点」部門への出品が決まるなど、世界でも高い評価を受けている是枝裕和監督の最新作『海よりもまだ深く』(5月21日公開)は、ダメな中年男の理想と現実のギャップから生まれる人間ドラマを描いた作品で、「“なりたかった大人”になれなかった大人」の物語でもある。主演した阿部寛、共演の真木よう子、樹木希林が自身の子供時代を振り返り、「なりたかった大人」について語った。
過去に執筆した小説が賞を受賞し脚光を浴びたものの、離婚した妻(真木)に子供の養育費を払うこともままならない自堕落な生活を送るダメ男を好演した阿部。「僕は子供の頃そんなに選択肢はなかったので、まさか自分がこんな仕事をしているとは思わなかった」と折り紙つきの演技力を持つ阿部から意外な言葉が飛び出した。自分の想像にはなかった現実に「この仕事をやれるようになって、また違う夢や目指すものができたので、それはすごくラッキーだった」と語り、境遇に思いをはせた。
ダメ息子を愛してやまない母を体現した樹木の子供時代は戦後。どんな大人になりたいかすら思い描けなかったと言い、樹木も女優は論外だったよう。「しょっぱなから森繁(久彌)さんと出て(ドラマ「七人の孫」)、やだやだって言いながら、年収が増えていった。エスカレーターに乗ってきたら、自動的にここだったっていう感じ」
二人とは対照的なのが小学生から女優になると決めていた真木。「子供の頃から人前でお芝居をすることが好きで、自分で脚本も書いていました。わたしは飛び抜けてきれいなわけでもないし、何かを持っているわけでもない。売れなかった時代も何年もありました。でも、諦めるかどうかで後の人生が決まると思って、必死でオーディションを受けて何回も挫折しそうになったけれど、いま、ここにいられる。ありがたい」
これに樹木は感心し、「挫折は大事。挫折なしでは、スターにはなれても役者として続くかどうか。皆さんも諦めないで。挫折してこそ人生ですから」とメッセージを送った。
是枝監督が実際に住んでいた団地で撮影し、元家族の心の交流を浮かび上がらせた本作は、なりたかった大人になった人、なれなくてもがいている人、諦めた人など、誰にとっても染み渡る名ゼリフが多数登場する。(取材:高山亜紀)