ジョディ・フォスター、母親と通った映画館が自分にとっての映画学校
映画『羊たちの沈黙』『告発の行方』で2度のオスカーに輝いた女優ジョディ・フォスターが、ジョージ・クルーニーを主演に迎えた新作映画『マネーモンスター』で監督を務め、本作のテーマや監督としての原点までを語った。(編集部:下村麻美)※昨年メキシコ、カンクンにて行われた『マネーモンスター』記者会見より
女優だけでなく、監督としても活躍するジョディは、映画『リトルマン・テイト』をはじめ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」(シーズン2)など、ドラマを含めれば監督としてのキャリアも数多く、その評価も高い。広い額の人物は頭がいいという俗説のとおり頭の回転のいい彼女は、演出もまたスマート。数々の伏線を張りめぐらしつつも観客にわかりやすく、一つのテーマに向かい、ユーモアも盛り込む。こむずかしいアートではなく“THE映画”を観せてくれる。映画『マネーモンスター』も経済というとっつきにくい題材をベースにしながらも、スリラー娯楽映画として最後まで観客の心をつかみ続ける。
人間の失敗がテーマ
『マネーモンスター』というタイトルからして、金融、経済映画を想起するが、ジョディはそれを否定する。
「金融界はこの映画で、ただの背景にすぎないの。この映画はもっと大きなテーマ……つまり、人間性について語ろうとする。私がこの映画で、また人生で、もっともおもしろいと思うことは、失敗。そして私たちはそれにどう対処するのか。私たちは、どのように、失敗したという気持ちに駆り立てられるのか。そして、失敗した人間が、不完全な形でいる時、人と出会うとその関係はどんなものになるのか。その物語を、今日の金融界を舞台に語るのよ。そこでは速いスピードで行われるコンピュータや取引、そして人間の手に任されていないテクノロジーなどについて語られる。つまり、人間の失敗を、テクノロジーの世界で語るわけで、私はそこに魅力を感じたの」
『マネーモンスター』でスポットがあてられているのは、人間の感情。そしてそれらが絡み合うことで起きる数々のトラブルをスリラーとして昇華させ、スピーディーな展開で最後まで観客をぐいぐい引き込む。ジョディにとっても監督として、これは新しい試みだったという。
「警官とか……私がこれまでの映画で出してきたことのないものを出してくることもできたし。だけど、私は、スリラー映画にたくさん出てきたし、人々が本当に愛するこのジャンルに私も監督として参加できたのはうれしいわ」
監督として一番難しかった作品
『マネーモンスター』では、異なった5つのストーリーが、同時に起こりやがて一つにまとまっていくという演出だ。そこがジョディの腕の見せどころだったという。
「人質事件、コントロールルーム、現場にやってきた警察。それに金融界。全世界的な側面もある。このストーリーの影響を受ける人たちは、世界中にいるの。そこが一番のチャレンジだったわね。スリラーの要素を維持しながらも、リアルタイムで起こるこれらのストーリーをひとつにまとめていくこと。これは、私が監督した中で、一番難しかった映画よ」
難しかったと明かす理由はテーマの新しさにもあるという。
「この映画は多くのテーマを扱うものよ。虚像の親近感という上でメディアも、この物語の大きな一部。今、世の中の文化は、実際に誰かと同じ部屋にいるよりも、カメラを通して見たり、モニターを通して話すほうが、より親密と感じられたりするように変わってきた。私たちが持つその虚像のコネクションについても、この映画は少し触れるの。そのコネクションの良いところ、そしてそれがもつ困難さも。この映画で、ジュリア・ロバーツのキャラクターとジョージ・クルーニーのキャラクターは、とても近くにいて、文字通り耳元で語り合うのだけれど、映画のほとんどで二人は同じ部屋にはいないのよ。この映画の中で、とても親密なのにね。ある意味、お互いの命を救いあってもいるのよ。それを私はとてもおもしろいと思った。物理的に近くにいない人と親密なコネクションをもつこと。それは、ここ10年、あるいは20年前までは、なかったことなのよ」
ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツという大スター
ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツという大スターを監督として扱うのも気を遣ったという。特にジョージ・クルーニーは、本作ではセリフも多く、撮影現場ではかなりナーバスだったという。
「この映画で、ジョージは大変な仕事をやらなきゃいけなかった。彼にとっては、難しい映画だったの。せりふも多く、アクションも多く、それらを同時にやらなきゃいけないことがたくさんあった。いくつものことを同時にこなさなきゃいけなかったのよ。走りながらカメラのほうを見て、たくさんせりふを言うとかね。だけど、製作現場には、明るい雰囲気があったと思うわ。私の現場はいつもそうよ。楽しいと感じていなければ、その人の演技はその人にとって最高のものにはならない。映画づくりは大変。そういうものなの。真冬で氷点下の午前3時にビキニ姿で外に出なければいけなかったりする。俳優は、そういったことに耐えなければいけない。だから、彼らが楽しめるようにしてあげないといけないのよ」
監督としての原点
『マネーモンスター』は、ジョディが影響を受けた監督の一人で、シドニー・ルメットの『狼たちの午後 』や『ネットワーク』にオマージュを捧げているという。緊張感やスピード感はそれを受け継ぐものだという。女優として数々の作品に主演している彼女は、さまざまな一流監督の影響を受けていると明かす。
「自分が一緒に仕事をした多くの監督から私は多くを学んだと思っているわ。彼らは、私のお手本なの。彼らが作るような映画を私は作らないけれど、彼らのやることを見る。たとえばマーティン・スコセッシとか、デビッド・フィンチャーとか。たくさんいるわ。ロバート・ゼメキスもそうね。優れた監督はたくさんいる」
その中でジョディが監督として原点となった女流監督の名前を明かした。
「子供の頃、母は私をよくフランス映画、イタリア映画、ドイツ映画などに連れて行ってくれた。それが私の映画学校だったのよ。ママが学校に迎えに来てくれて、私を映画館に連れて行ってくれて、夕食を買って、お持ち帰り用の容器に入れて食べる。リナ・ウェルトミューラーを見て、『この人が私の知る、現代の初めての女性監督なのか』と思った時のことは、覚えているわ。彼女は、ちょっと風変わりな、キャラクターに重点を置いた映画を作っていた。それらは暗いテーマをもっていても、そこには明るさとユーモアがあったの。彼女はそれらを同時にやってみせることができたのよ。子供だった私は彼女を見て、『いつか私もあんなふうになりたい。ああいうメガネをかけて、あんな服を着たい』と思ったの」
『マネーモンスター』は、そんなジョディ監督のこやしとなった監督たちへのオマージュが全編にちりばめられている。社会派を思わせる重いテーマを含みつつもキャラクターの感情を描くことに重きが置かれユーモアもたっぷり含まれている。スリラーとして満点に近い映画の構成から、優等生的な映画と見がちだが、ジョディ・フォスター監督の作品として観るとその作風が際立つ作品でもある。
映画『マネーモンスター』は、6月10日全国公開