意図的な失敗でリアルに近づくアニメーション
ドローンによる空撮など撮影技術が発達してきた昨今、実写映画もアニメーション映画のようなショットを含む作品が増え、「完璧」に作り込んだ映像が多くなってきた。だが、ディズニー・アニメーションの最新作『ズートピア』ではむしろ、カメラマンがいる実写作品ならではの“失敗”を取り入れていると、レイアウトのトップであるネイト・ワーナーは語る。彼いわく、意図的な失敗はアニメーション映画で出しにくい「リアル」を生み出すのだという。
今回の目的について「僕らが知っている世界の現実に基づいていると感じられるようにしようと決めたんだ。だから、カメラにもキャラクターになってほしかったし、いつもカメラマンとつながっているように感じたかった」と話すネイト。彼らレイアウトチームは、実際にカメラマンがカメラを持って撮影しているような“揺れ”を映画の中で表現したという。また撮影している対象をわざと通り過ぎてから、再びカメラの中心に戻したり、フォーカスを合わせることを失敗してみたりとまるで「人」が撮影しているような映像に仕上げている。カメラが三脚に乗っているような固定された映像は、ほんの数回しかない。
ネイトは「(実写映画で)取り除こうとしていることすべてをコピーして、もっとリアルに感じられるようにしているんだよ」と明かす。リアルさを手に入れるために、「完璧なカメラを作りたくない」とも感じているのだそう。
あえて実写作品のように照明やレンズの制約を加えている本作だが、ヒロインのジュディが大都市「ズートピア」に向かう列車のシーンでは、実はカメラの制約がなくなっている。ここでは現実離れな画(え)を入れることによって、いかに彼女がズートピアを素晴らしい理想郷だと思っているかを表現しているのだそう。そしてジュディが思い描いていた夢の現実を知ったとき、美しく完璧で自由だったカメラも一気に現実世界と同じ制約を受け始める。まるでキャラクターの思いにリンクするようなカメラワークは、ディズニーが見せる匠の技といってもよいだろう。(編集部・井本早紀)
映画『ズートピア』は全国公開中