O・J・シンプソン事件、主席検察官マーシャ・クラークが振り返る
O・J・シンプソンの元妻殺害事件の裁判で、主席検察官だったマーシャ・クラークが、シンプソンを描いたテレビミニシリーズ「O.J.:メイド・イン・アメリカ(原題) / O.J.: Made in America」について、6日(現地時間)にニューヨークのAOLで行われたイベントで語った。
本作は、若き日のシンプソンが人種の壁を乗り超えアメフト選手として世間に名をはせていく過程と、世紀の裁判となった元妻殺害事件を掘り下げたドキュメンタリー作品。監督は映画『キューティー&ボクサー』の製作者エズラ・エデルマン。
20年前の裁判について、マーシャは「この事件に関わったとき、すでにわたしはL.A.で10年検察官の仕事をしていて、人種(特に黒人)の階級格差がもたらす刑事事件に関して把握していたつもりだった。なぜなら、それまでわたしが関わった黒人被疑者の裁判は、すべて弁護士が人種の偏見を問題視して検察側と戦ってきたから。でも黒人であるシンプソンが白人のような扱いを受けていたことで、弁護側は人種偏見を問題視して裁判を戦わないことが裁判開始後にわかったの。そして裁判開始8週間後、マーク・ファーマン刑事が、犯行に使用したとされる疑惑の革手袋を発見した時点(この手袋は小さすぎて、シンプソン有利となる)では、通常の人種偏見による裁判と状況は完全に異なっていた。検察側も、通常の戦いができず苦戦を強いられることが理解できた」と振り返った。
当時、元妻ニコールさんへの家庭内暴力は判決にあまり影響を及ぼしていなかった。「20年前に比べ、現在は家庭内暴力の問題に関してある程度の進展があり、人々の間でその意識が高められてきた。当時は、家庭内暴力は家族間の問題であり、犯罪として大きく扱われなかった。でも今は、人々の間で家庭内暴力は犯罪として理解されている。家庭内暴力は報告すべきであり、訴えられるべきこと。ただ、まだ家庭内暴力の統計は驚くほどの数で、それを変えていくには長い道のりがある」と語った。
今作では当時のタブロイド紙の観点は描かれていない。「今作はタブロイド紙の観点を全く取り上げていなかったので、インタビューに応じたの。わたしは、シンプソンについて語ることに辟易(へきえき)していたし、あの事件について、すでに多くの人が独自の観点を持っていた。当時の検察官の作戦を語るのも嫌だった。でも制作者たちはこの事件だけではなく、世界的な人種問題にも触れたいと言い、それがわたしには重要だったの」と答えた。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)