自分の足元に宝物はある!世界で活躍する日本人監督が語る
開催中の国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2016(SSFF&ASIA)」で10日、映画『あん』『2つ目の窓』などの河瀬直美監督が「マスタークラス by 河瀬直美~足元を掘り下げれば世界につながる」と題してワークショップを行い、映像製作の原点となった自身の経験や、今の日本映画界の課題について観客に語った。
大きな拍手で迎えられた河瀬監督は、専門学校時代の自身の短編8ミリ作品「私が強く興味をもったものを大きくFixできりとる」や「かたつもり」を投影しながら「8ミリカメラはカタカタとフィルムの音がするので、撮る対象に『撮らせてください』と伝えて、まっすぐ向き合う時間が必要です。映像表現の原点って、カメラを持つ私と撮る対象との関わり方なんだと、このとき知りました」と自身の出発点を説明。さらに「かたつもり」では、養母である「おばあちゃんに触れたいと思う自分と、(彼女を)カメラで撮る自分の2つを強烈に意識した」とも振り返り、「異文化の人に共感を得るには、主観(自分の目線・情熱)と客観(カメラの目線・撮る自分)の両方を意識するのがカギ」と世界的評価を勝ち得た監督らしい映像制作のポイントを解説した。
「かたつもり」の後、すぐに手掛けた『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)、その後『殯(もがり)の森』で同映画祭審査員特別大賞グランプリを受賞した河瀬監督。今年は同映画祭の短編コンペティション部門と、学生作品を対象としたシネフォンダシオン部門の審査委員長に、日本人として初めて就任した。
そんな河瀬監督に会場から「日本映画が世界にもう一つ出ていけない理由は?」との質問が出ると、監督は「日本の俳優は素晴らしいのに、世界で活躍する場が少なすぎるように思う。役者の力を存分に引き出すまで、作り手(監督)が向き合えていないのかも? 日本人同志であくせくしすぎているとも感じます。意見の違う人とちゃんと意見を戦わせ、相手を否定するのではなく、着地点を見つけていく。それが本当のクリエイティブです」と語りかけた。
2010年から「なら国際映画祭」のオーガナイザーとして、自身の出身地・奈良から映画の魅力を発信し、新人監督発掘にも力を注いでいる河瀬監督。カンヌ国際映画祭、SSFF&ASIAとパートナーシップを結び、「若い作り手に、世界の第一線に触れる機会を提供したい」と話す監督は、ジル・ジャコブ(カンヌ国際映画祭名誉会長)の言葉を借り「(作り手には)1つの部屋と1つの窓があればいい。自分の部屋の窓から見えるものを大事にすれば、物語は生まれる。自分の足元にある宝物を発見すること」と集まった人たちにエールを送っていた。(取材/岸田智)
「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2016(SSFF&ASIA)」は6月26日まで、東京は表参道ヒルズ スペース オー、ラフォーレミュージアム原宿、他3会場、横浜はブリリア ショートショート シアターで開催