ヒトラーと自撮り!30キロ増の総統閣下役、人を誘導する秘訣とは?
現代にタイムスリップしたヒトラーが奇想天外な騒動を引き起こすさまを描いた映画『帰ってきたヒトラー』で30キロもの増量をしてヒトラーを演じたオリヴァー・マスッチが来日し、撮影を通して感じた“人を誘導する秘訣”について語った。
これまで数多くの映画でさまざまな俳優がヒトラーを演じてきた。しかし、本作はこれまでのヒトラー映画と異なり、“現代に復活した”ヒトラーの姿を追っている。「ヒトラーを茶化したりするアプローチもあると思うのですが、私はそれはしませんでした」というオリヴァー。「ヒトラーは現代に自分を適合させるだろうと思ったんです。例えばインターネットに感心して、テレビに感心する。今はくだらない番組ばかりやっているけれど、プロパガンダに使えるじゃないかと。そういう現代のものに自分を合わせていこうとするヒトラーを演じました」。
また、本作では物語と平行して、ヒトラーにふんしたオリヴァーが実際にドイツの街中に出て、“ヒトラーとして”市民と交流するというドキュメンタリー撮影が効果的に挿入されている。「一人の人間がこういう効果をもたらせるということがすごく印象的でした」というオリヴァーの言葉の通り、ヒトラーにふんしたオリヴァーと一緒に自撮りをしたり、笑顔で会話したりと、彼に対して肯定的な人々が多くいるのが印象的だ。さらに、ヒトラーの主張は当時と全く変わっていないにも関わらず、心を開いた人々がヒトラーの意見に同調していく姿には危機感さえ覚える。
「人々はよくあるように大きな声で演説するヒトラーを期待したと思うんです。でも、私はそういうヒトラーではなくて、非常にソフトで、父親のような包容力を持って、優しく、人々が困っていることに耳を傾けるヒトラーを演じたんです。そうすると、人々はヒトラーに対して心を開いて、実は外国人に対して不満を持っているとか、外国人を敵視するような発言をしてくるんですよ。働かない奴は許せないからヒトラーが昔やったように強制労働収容所を作るべきだって発言する人もいたりして。人々の心をつかんで、誘導することができるんだっていうことが驚きでした」。
ヒトラーを笑い飛ばすという、一歩道を間違えれば危険なことになりかねない挑戦を果たした本作。オリヴァーは、「私たちの中でヒトラーの過去を笑い飛ばしたいという思いもある」という。しかし、本作ではヒトラーは決して“過去の怪物”ではないことがわかる。「演説口調で叫ぶヒトラーはモンスターともいえると思うんです。でも、残念ながらモンスターではなかった。ヒトラーは人間だった。そこがまた愕然とする恐ろしいところです」。そして、その“人間”の恐ろしさは、現代社会にも通じるものであることを、本作はまざまざと観客に突き付けている。(編集部・吉田唯)
映画『帰ってきたヒトラー』は6月17日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開