38人の目撃者がいたのに彼女はなぜ亡くなった?
1964年にニューヨークのクイーンズで起きたキティ・ジェノヴィーズ殺害事件を描いたドキュメンタリー映画『ザ・ウィットネス(原題) / The Witness』について、キティさんの弟ウィリアム・ジェノヴィーズとジェームズ・ソロモン監督が、4月29日(現地時間)にニューヨークのシヴィック・ホールで行われたQ&Aで語った。
本作は、会社から帰宅途中のキティさんが黒人男性ウィンストン・モースリーにナイフで刺され大声で助けを呼ぶが、38人の目撃者は誰一人警察に通報せずに彼女が亡くなった事件を、キティさんの弟ウィリアムが当時の状況や目撃者を通しその全貌を明らかにしていく。
事件から約40年後の製作経緯について、ソロモン監督は「もともと僕は、1990年代後半にキティを題材にした長編の脚本をHBOのもとで、ジョー・バーリンジャーらと共同執筆する予定だった。そのリサーチの過程で、キティの弟ウィリアムに会って、彼には世間が知らないプライベートなストーリーがあると感じた」と語った。その長編は企画倒れとなったが、ドキュメンタリーを手掛けるきっかけになったそうだ。
ベトナム戦争で足を負傷して車椅子のウィリアムは、事件の38人の目撃者について「個人的には38人もの目撃者がいることが信じられなかった。これまでの僕は、姉と同様の事件が起きないようにするための犯罪防止グループの促進者ではあったが、姉の事件は(トラウマとなり)深く関わらなかった。でも長い年月を経て、もっと姉の事件を知るべきだと感じた。そこで警察から当時の大量の資料を手に入れたが、犯罪防止グループの仲間に『君は一体何をしているんだ? やめるべきだ』と怒られた。僕は、つらい体験になると思い、いったんは調査をやめたが、キティが僕の質問にいつも丁寧に答えてくれたことを思い出して、今度は僕が彼女の事件の答えを探すことになった」と意志は固かったようだ。
犯人ウィンストンの息子スティーヴンとの対面については、「彼が話したことのほとんどは、彼の父親が彼に伝えたことだ。ウィンストンは、キティの事件に関して10年ごとに新たなストーリー(虚言)を語るような人物で、彼は姉が人種差別の言葉を投げかけたと言っていたが、姉は彼に会ったこともなかった。さらにウィンストンは、マフィアの運転手をしていたと嘘の供述をしたりしていて、そんな話を知る僕は、スティーヴンがある意味かわいそうに思えた」と振り返った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)