1980年代と以降の音楽カルチャー、何が違う?『はじまりのうた』監督の青春時代
『ONCE ダブリンの街角で』(2006)、『はじまりのうた』(2013)といった音楽映画で高い評価を集め、自身も元ミュージシャンであるジョン・カーニー監督が、自らの青春時代をベースにした最新作『シング・ストリート 未来へのうた』の時代設定でもある1980年代の音楽カルチャーへの思いを語った。
元ミュージシャンという経歴を持つカーニー監督の原点と言えるのが1980年代の音楽シーン。映画の主人公である14歳のコナー少年は憧れの女性にモテたい一心からバンドを組み、当時興隆を極めつつあったミュージックビデオの撮影にのめり込んでいく。
劇中にもミュージックビデオを「音楽と映像を融合させた新しい芸術」と絶賛するセリフがあるように、1980年代に一世を風靡したミュージックビデオはカーニー監督の人生を決定づけたメディア。主人公のコナーも、デュラン・デュラン、ザ・キュアーといった1980年代ブリティッシュポップを代表する人気グループにモロに影響されて、地味ないじめられっ子からグラマラスなロックスターもどきへと変身を遂げていく。
「今、改めて1980年代ファッションを振り返るとすごく恥ずかしいね」と笑うカーニー監督は、「この映画でも再現したように、あの頃の服装って本当にイカレていたと思う。ただ音楽もダサかったと言うのは勝手だけど、僕に言わせればあのころは素晴らしい音楽を生み出したとてもクリエイティブな時代だったよ」と当時の音楽シーンへの賛辞を惜しまない。
カーニー監督は「1980年代の音楽は純粋にオリジナルなんだ」と断言し、アメリカのブルースやロックンロールに影響を受けたビートルズやローリング・ストーンズがブリティッシュロックの礎を築いたのは1960年代だが、1980年代にはそういった先達の影響下から抜け出したミュージシャンが次々と前例のない音楽を発明していたと分析する。
「1990年代以降は、過去の音楽をお手本にしたりするリバイバルの時代に入ってしまったと思う。だから1980年代は、真にオリジナルな音楽がヒットした最後の時代なんだ」と語る口調には、懐かしい時代への郷愁だけでなく、音楽を愛し続けてきた者だからこその説得力が宿っていた。また演奏や作曲は長らく趣味だけに留めていたが、本作の劇中曲の一部で共同作曲を務めていることも明かした。(取材・文:村山章)
映画『シング・ストリート 未来へのうた』は7月9日、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネクイント渋谷ほか全国順次公開