自分を捨てた母親と再会した実体験…『冬の小鳥』監督、養子縁組3部作の構想明かす
児童養護施設に預けられた少女の自伝的な物語『冬の小鳥』(2009)で長編監督デビューを飾ったウニー・ルコント監督が、かつて実母と再会した際の心情を、新作『めぐりあう日』のヒロインに重ねたことを明かした。
【動画】なぜ自分を捨てたのか…母を捜す美しき理学療法士の物語
9歳のときに、韓国からフランスへ養子として渡ったルコント監督。その監督第2作となる『めぐりあう日』のヒロインは、産みの親を知らずに育った理学療法士のエリザだ。自らの出生を知るため、幼い息子を連れてパリから港町ダンケルクに引っ越した彼女の、実母との運命的な再会がつづられてゆく。
「わたしとエリザとはバックグラウンドも抱えているストーリーも、まるで違います。ただやはり、彼女の感情のある程度はわたし自身の体験に基づいていますし、共感もできますね。エリザの『なぜ捨てられたのか』という怒り、痛み。そして自分が前に進むためにも親の事情を理解しようと努力する。それらはまさしく、わたしが経験してきたことです」とルコント監督。
思いがけないかたちで実母と再会したとき、エリザはショックを受け混乱してしまう。「目の前に突然現れた女性のおなかから産まれたことは事実でも、やはり他人としか思えない。血のつながりはあっても、一体どういう女性なのかがわからないわけです。その大きな戸惑いは、わたしの中にもありましたね」と渡仏後に女優の仕事で初めて韓国へ戻った際に、撮影についての新聞記事を読んだ実母が訪ねてきた出来事をしみじみ振り返る。
エリザを母親探しに駆り立てた動機の一つに、自分にも夫にも似ていないアラブ系の顔立ちの息子の存在が挙げられるが、エリザと母親も一見してそれとはわからない容貌だ。シャーロット・ランプリングを思わせる『灼熱の肌』(2011)のセリーヌ・サレット、『セラフィーヌの庭』(2008)などの名バイプレイヤー、アンヌ・ブノワがそれぞれを繊細に演じきっている。「確かに二人は似ていませんね。ただスクリーンで観ているうちに、ひょっとしたら母子かもしれないと思わせる、何かがあることも配役の大きなポイントでした」。
ルコント監督は、孤児と養子縁組というテーマで、三部作を完成させる予定だ。「1作目当初からの構想ではありません。今作の編集中にふと思いついたアイデアです。2作ともに養子縁組を扱ってはいますが、“捨てられた”感情を中心に描いているため、養子縁組についてまだ語り尽くせていないと思ったわけです。最終章は養子として引き取られた家庭で、実際に過ごしている期間の物語。もちろん、キャラクターや設定はまったく違いますが、前作と今作の間にあたる時期を描こうと考えています」。(取材・文:柴田メグミ)
映画『めぐりあう日』は7月30日より岩波ホールほか全国順次公開