実際にゴジラが東京に現れたら?から始まった『シン・ゴジラ』の世界
“現実対虚構”と銘打たれた『ゴジラ』シリーズ最新作『シン・ゴジラ』(7月29日公開)で、リアルな世界をデザインした美術監督の林田裕至が、セット作りの裏側や総監督・脚本を務めた庵野秀明の世界観へのこだわりを語った。あわせて、林田作画による映画本編では描写されることのなかった参考用イメージ図が公開された。
細部まで作り込まれたセットデザインで、日本アカデミー賞ほか多くの賞を受賞してきた林田にとって、庵野総監督との仕事は実写映画『式日-SHIKI- JITSU-』に続いて2度目。最初の打ち合わせで要望されたのは、デザイン的要素の排除だったという。「今回は、実際にゴジラが東京に現れたら政府はどんな対応をとるのかを、現実に基づいて描きたいと言っていました。ですから、あらゆるものは現状に即して作ってほしいとのことでした」と振り返る。
おもなロケハン先は、政府や自衛隊の施設。見学コースでは入ることのできない施設も数多く訪れたが、通常の映画作りにはない苦労もあった。「首相官邸ではそのまま再現するのは控えてほしいとクギを刺されたり、自衛隊の作戦本部には入れなかったので資料をもとにデザインしたりした」そうだが、そこに映画的アレンジは加えなかったと語る。またスタッフは、ゴジラの移動ルートを車ではなく自転車で回った。「その方がよくわかるから」という庵野総監督の発案なのだそう。
撮影時に、庵野総監督が特にこだわったのが画面のレイアウト。さまざまなアングルから撮影できるようセットの壁は取り外せるよう設計されたが、カット数が多いため「バラす時間は15分、組み立てるのは20分以内で時間厳守」だったと明かしたが、それは想定したカット数をスケジュール通りこなすためには不可欠だった。そうして撮影されたカットは、ほとんど完成した映画に使われていたという。「膨大な数のカットが、すべて庵野さんの頭の中で構想されていたと考えるとおそろしい」と笑う。
完成した映画の上映時間は約2時間だが、その情報量は3時間を超えてもおかしくないボリュームだという。「ここまで多くの情報が詰め込まれた作品は、これまで観たことないですね」と語る林田は、「この歳になって、経験したことのないような現場に携わる機会はそうはありません。そういう意味でもこの作品に関わることができて良かったと思います」と現場を振り返った。(取材・文:神武団四郎)