死からの再生に不可欠なもの…『舟を編む』脚本家が描く漫才の世界
映画『舟を編む』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した渡辺謙作が、監督/脚本を務めた新作『エミアビのはじまりとはじまり』(9月3日より全国公開)について、7月24日(現地時間)ニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催された「ジャパン・カッツ!」の取材で語った。
自動車事故で相方の海野(前野朋哉)を失った若手漫才コンビ「エミアビ」の実道(森岡龍)は、そのショックで途方にくれ、数年前までお笑いの世界にいた黒沢(新井浩文)に会いに行くが、黒沢から一人漫才をダメ出しされてしまう。だが、それでも実道は海野と同乗していて亡くなった海野の交際相手で黒沢の妹でもある雛子(山地まり)たちのために、漫才で再起を図っていく。
今作の製作経緯について「もともとは知り合いの死による悲しみから、再生する話を描こうと思っていました。人が亡くなったときに悲しみの涙を流しますが、それでもその亡くなった方の話をして、笑うこともあります。ついさっきまで泣いていたのに、それはなぜだろうと思ったことがありました。そこで大切な人の死から再生するには、笑いが不可欠だと思って笑いがテーマになり、それならば漫才師という、笑いを職業にしている人を通して、笑いを突き詰めたんです」と答えた。
漫才のネタを考えるのに苦労したのか。「それがあまり勉強しませんでした。子供の頃はツービートなどよく観てましたけど、今の家はテレビがないんで、全くお笑いを観てません。ただ、今回漫才ネタをやることになったので、YouTubeでいろいろな人の漫才を観ました。これくらいならすぐに脚本が書けると思ったんですが、いざ書くと面白いと思っても、字面だとなかなか読んだ人に伝わりません。さらに演じるコンビやキャラクターが決まらないと成立しなかったため、2人の主役が決定してから、彼らとも話をして脚本を直しました」と明かした。
前野と森岡の配役は「漫才は、片方が二枚目でもう片方が三枚目だったり、片方が背が高くてもう片方が低い、というのが定番と思ってました。最初に決めた森岡君は、高校生の頃に漫才をやっていてM-1の2回戦に出ていました。前野君は森岡君と同じ事務所で、森岡君でやるのならば、前野君も彼に年が近いしキャラクターも正反対なので、やりやすいと思いました。同じ事務所じゃなくてバラバラでキャストすると、息が合わないとも考えました」と明かした。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)