あの名作アニメの曲が『ゴジラ』に!作曲家の語る庵野秀明の一手
庵野秀明が総監督・脚本を務めた『シン・ゴジラ』の劇伴(音楽)を担当した作曲家・鷺巣詩郎が、二人の代表作でもある傑作アニメの楽曲使用について、庵野総監督との物作りを振り返りながら語った。
「ふしぎの海のナディア」「新世紀エヴァンゲリオン」など、歴史的な作品の数々で庵野総監督とタッグを組んできた鷺巣。二人が再びタッグを組んだ『シン・ゴジラ』では、まさにその鷺巣の手掛けた「エヴァ」の楽曲が使用されている。
観客からの反響を見越したであろう、庵野総監督の大胆な決断を鷺巣は、将棋で言うところの「名人の定石」と表現。「名人の打つ手というのは、打った本人にしか確固たる理由はわかりません。そして何より、その一手で皆が痛快に感じること。それに尽きるんです。悪手と言われる手でも、状況次第では良い手に化ける。今回は、最高の一手だと思います」と語る。
一方、本作に「エヴァ」が与えた影響については、「もう少し普遍的な考えによるものでしょうね。庵野総監督がエンターテインメントを捉えるうえでの、尋常ではない大局観が働いたということでしょう」と否定。本作には、日本作曲界の巨匠である作曲家・伊福部昭氏が手掛けた『ゴジラ』シリーズの楽曲も使用されており、こちらは脚本段階で曲名まで指定されていたということから、庵野総監督のこだわりはむしろ、伊福部曲にあった可能性が高い。
その伊福部氏の楽曲について鷺巣は「音楽的に一言一句たりとも、決して変えない」という大前提のもと、気の遠くなるような作業でモノラルからのステレオ音源化に取り組んだ。最終的には庵野総監督の判断で、伊福部楽曲はオリジナルのモノラル音源を採用。しかし鷺巣は、「結果はどうあれ、一本の映画を作るのにとてつもない手間がかかるのは当たり前のこと。後から考えると大変な遠回りだったとは思うけど、遠回りしたからこそ得られた最上の結論でもあるんです」と涼しい顔でその苦労を述懐する。
「庵野さんの周りに集まってくるスタッフに、物事をビジネスだけで考える人間なんて一人もいませんよ」という鷺巣。当初の打ち合わせでは、庵野総監督から、「音楽……あまり使わないかもしれない。使わないかな」と伝えられていたと明かしながら、「自分が作曲した音楽も監督にどんどん送り出していくうちに、『あ、コレもソレも使いますから』と言っていただいた」と笑顔で振り返った。(編集部・入倉功一)