日本と海外、仕事の差を実感 『ジャングル・ブック』日本人クリエイターの見たCG現場
ジャングルで育った少年モーグリと動物たちの絆と勇気を描いたディズニー映画『ジャングル・ブック』(全国公開中)で、リアルな動物だけでなく広大なジャングルの全てをCGで描き出した英国のVFX制作会社ムービング・ピクチャー・カンパニー(MPC)に務める日本人アーティストの松野洋祐(Yosuke Matsuno)が、本作の裏側と日本と海外のプロフェッショナルの違いを語った。
【動画】実写にしか見えないCG映像!『ジャングル・ブック』メイキング
日本でVFXアーティストとして働いた松野は、MPCにコンポジターとして勤務。各位部署で作られたさまざまな素材を合成して、最終的な絵作りを行う重要な役割だ。「CGを作る過程が料理でいうところの調理だとしたら、コンポジターは盛り付け。みんながすごく頑張って作っても、ここで変な絵を作ったら台無しになってしまうので、とても責任のあるポジションです」。
MPCでは火星が舞台のSF映画『オデッセイ』などに参加。そんな松野にとっても『ジャングル・ブック』は「特殊な事例」だったといい「実写の素材にCGを足すのも大変ではありますが、実写の部分がクオリティーの担保になる。でもモーグリ以外はフルCGとなると、完全な絵作りをしなくてはいけない。モーグリでさえもフルCGだったりしますから。原作小説の世界観がリアルになったらどんな魅力的な世界になるかを話し合いながら作っていったので、すごく大変でしたね」と制作を振り返る。
「ハリウッド映画に参加したい」という思いで渡英。一般的な日本企業と違い、プロジェクト単位で契約を行うMPCで5年、生き残ってきた。「そのときのプロジェクトで評判が悪いと次の契約はない。いなくなってしまう人もよくいるので、厳しいですね」と言いながらも、「イギリス人の同僚は3割くらいで、後は世界中から腕自慢が集まってくるんです。良いものを作ろうと思う人たちと、それを実現するスキルを持った人たちがいて、相乗効果のようなものが生まれている気がします」とその表情は充実している。
また海外だからこそ学べることもあった。「例えば、日本と海外で何故こんなに(映像の)クオリティーが違うんだろうと思うことがあったんです。こっちに来てわかったのは、日本では全ての工程を一人が担当するジェネラリストと呼ばれる働き方が主流ですが、こちらでは各工程を担当するプロフェッショナルが集まってチームを作るということ。味付けのプロがいれば盛り付けのプロもいるというか。それを成立させるマネジメント面もしっかりしているので、スピード的にもクオリティー的にも勝ち目がないと思ったんですよね」。
そんな松野だが、最終的な目標は日本。「やはり自分は日本人なので、最終的には日本に戻って映像業界をもっと盛り上げたいですね。邦画だってまだクオリティー的にくやしいところもあると思うんです。何かしら経験を生かして、みんなで楽しく作っていけるといいですね」と真摯(しんし)に語った。(編集部・入倉功一)