本当にあった俳優「顔切り事件」がモチーフ 『シャブ極道』監督最新作に称賛の嵐
『シャブ極道』『竜二 ~Forever~』の細野辰興監督がメガホンを取った『貌斬り KAOKIRI~戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より~』が先月28日、大分県由布市で開催された第41回湯布院映画祭で上映され、辛口で知られる湯布院映画祭の観客から絶賛の声が相次いだ。この日は細野監督のほか、俳優の山田キヌヲ、草野康太、和田光沙、嶋崎靖らが出席した。
1937年、二人の暴漢に襲われ、映画スターの命である顔を斬りつけられた映画黄金時代の二枚目スター、長谷川一夫襲撃事件をモチーフにした本作。「希代の美男俳優がなぜ顔を斬られることになったのか」という謎に迫った戯曲を劇中劇とし、そこにそれを演じる俳優たちの狂気に満ちた人間模様を織り交ぜるという、複雑な多重構造の物語が展開する。
自分は今、舞台を観ているのか、映画を観ているのか。現実と虚構が複雑に絡み合い、やがて「役者というのは演じるためにここまでやるのか……」というさまが浮かび上がる。そんなハイテンションで熱量が高いドラマが湯布院の観客の心を捉えたようで、「実験的で挑発的ですばらしい作品」「最初は143分という上映時間にひるんだが、実際に観たら90分くらいで終わったような感じだった」「最初から最後まで引き込まれた」と称賛の声が続々。特に役者バカの極地ともいうべき主人公の男を演じた草野への評価は高く、「これからはあんたの時代が来るで!」と興奮した様子で語る観客の姿もあった。
かつて『シャブ極道』など物議を醸し出すような挑発的な題材の作品を発表してきた細野監督。「今は自主規制の時代だから、映画会社の移籍問題にからんだこの作品に大手映画会社が金を出さないことはわかっていた。だったら一度くらい自分でもお金を出してやってみようと思って。皆さんの協力を得ながらも、うそみたいなローバジェットですが、やってみたということです」と説明。
劇中劇となる舞台では、昨年1月に行われた8回にわたる舞台公演をすべて撮影。実際の観客が見守る中、黒子にふんしたカメラマンが間近で映しだした映像の数々は不思議な迫力に満ちている。「舞台の熱気を感じてもらえたようで良かった。今回は本当に役者たちがすばらしかった。そして何より陰の主役は、ミッチー(カメラマンの道川昭如)だと思う」と嶋崎が切り出すと、会場にいた観客は、道川をねぎらうように拍手を送った。(取材・文:壬生智裕)
映画『貌斬り KAOKIRI~戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より~』は新宿K's Cinemaにて12月公開予定