浅野忠信、映画ばかりやっていても仕方がないと語るその真意
第69回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」審査員賞を受賞した、衝撃的な家族ドラマを描く映画『淵に立つ』で、平凡な家族を振り回す謎の男を演じて確かな手応えを得た浅野忠信が、俳優として国内外で幅広く活躍している現在の心境を明かした。
人間の心の深淵をのぞき込む感覚の心理スリラーともいえる本作で、浅野は若い頃に演じることの多かった、不可思議で不穏な空気を持つ人物を演じている。本格的に取り組むのは久々の役柄だが、ちょうど「40代となった今の僕が、これまで学んできたことをどのように出せるかということを、得意分野だと思える役で追究してみたかった」という時期だったため、「これはとことんやれる役だと思った」と出演の決め手を語る。
さらに、「楽をしたいわけではなく、面白いところにいたい」という浅野は、本作の深田晃司監督とはクランクイン前に徹底的に話し合うことで、撮影現場では演じることだけに集中できたことから、「まさに今の僕がやるべきことだと気付きましたね」と満足そうな表情を見せた。
また海外作品も含め、今後も新作が控える浅野だが、遠藤周作の原作によるアメリカ製作映画『沈黙-サイレンス-』では、「崖をエスカレーターで昇っていくようなプロフェッショナルな監督」と称えるマーティン・スコセッシ監督の撮影現場に参加し、「めちゃくちゃ面白かったですね。僕が求めれば徹底的に返してくれるし、逆に僕がアイデアを出さなかったら認めてくれない。現場の進行もスムーズでした」と振り返る。
そんな最高の撮影現場を経験した今、あくまでこの取材時点の心境だとしながらも「あまり映画ばかりやっていても仕方がないとも思っています」と、意外な告白をする。しかしそれは、より多くの演技の引き出しを持つために、俳優以外の活動や何げない日常でも、表現力を磨きたいという考えのもと。また「生半可な思いや中途半端なテンションで臨むような監督とはやりたくない」ということでもあり、「あくまでエネルギーの問題だから(海外に限らず)日本でもできるし、エネルギーさえあれば予算にかかわらず良質な作品が作れるので、確かなエネルギーがある人とやりたいんです」との真意を明かす。
そして、「本当にすごくわがままでしかないですが、今回の深田監督のように、一聞いたら百返してくれるような、とことんやってくれる監督とでないとやりたくない。物足りないのは嫌ですから」と全力で臨める撮影現場への強いこだわりを見せた。(取材・文:天本伸一郎)
映画『淵に立つ』は全国公開中