麻薬常習者の母は育児放棄、学校ではイジメ…オスカー戦線ダークホース候補とは?
今年の1館あたりの平均興行収入ナンバーワンの記録を樹立した話題作『ムーンライト(原題) / Moonlight』について、バリー・ジェンキンス監督と女優ナオミ・ハリスが、10月21日(現地時間)ニューヨークのAOL開催のイベントで語った。
マイアミの貧困地区で暮らすシャイロン(アレックス・ヒバート)は、麻薬常習者の母親(ナオミ)に育児放棄され、学校でもイジメに遭っていたが、近所に住む麻薬ディーラー、フアン(マハーシャラ・アリ)とその妻にかわいがられながら成長していく。だが自身も麻薬ディーラーとなり、ゲイであることから身動きが取れなくなっていく。シャイロンの青年期をアシュトン・サンダース、成人期をトレバンテ・ローズが演じた。ブラッド・ピットの製作会社プラン・Bが製作。
今作の映画内のトーンや美的感覚は、近年のアメリカ映画にあまり見られない。「僕が影響を受けたのはフランスのヌーベルバーグ作品やアジアの前衛的な作品で、それらが反映されている。今作の素晴らしいところは、マイアミの貧困地区に住んでいた僕と脚本家タレル・アルバン・マクレーニーのパーソナルなストーリーと、アートシアター(芸術性の高い映画を上映する映画館)の影響を交錯させて作り上げたことだ」とジェンキンス監督は語った。
貧困地区を扱った映画だが、典型的なアプローチをしていないことについて、ナオミは「ジェンキンス監督は今作がパーソナルな映画になるとわたしに教えてくれた。そんな彼の個人的な見解が、決して陳腐な映画にはならないと確信させてくれたわ。お酒やタバコ、コーヒーさえも飲まないクリーンな生活をするわたしは、この麻薬常習者役に勝手な判断を下していたため、クリーンな生活から麻薬常習者の世界に飛び込む上で、YouTubeの麻薬常習者のドキュメンタリーやインタビューなどを鑑賞したわ」と入念なリサーチを行ったようだ。
オープニングシーンのロングショットについて、ジェンキンス監督は「実はあのショットは(事前に)計画したものではなくて、撮影前日に思い付いたものだ。僕はこのオープニングショットでは、通常のように編集しながら二人(シャイロンとフアン)のキャラクターを途中で交錯させることをせずに、あえて運命的(な出会い)という概念を観客に植え付けたかった。つまり、この二人が数秒ずれて歩いていたら、彼らは会うことができず、その後の展開もなかったはずだ」と語った通り、そんな演出が見事な映画を完成させた。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)