少年たちに起きる美しくも残酷な悪夢…アブノーマルを求めた衝撃作を監督が語る
映画『カノン』『アレックス』など、人間の倫理観を揺さぶるようなスキャンダラスな作品を次々と発表してきた鬼才ギャスパー・ノエの公私にわたるパートナーとして知られるルシール・アザリロヴィック監督が、最新作『エヴォリューション』について語った。
2006年に日本公開された『エコール』では、男子禁制の秘密の園に住む大人になる前の少女たちの、純粋無垢(むく)な姿を圧倒的な映像美で描き出した監督。そんな彼女が新作で描くのは、奇妙な医療行為を施される少年と、女性だけが住む、人里離れた島で起こる“悪夢”のような出来事だ。
美しさと残酷さが同居した世界観を持つ両作はある種、表裏一体のようにも見えるが、「結果的に作品として対にはなっているかなとは思うけども、そもそもこの映画の着想を得たのは『エコール』よりも前のこと。実際にこの映画を作ることになった時には、『エコール』とは違うものを作りたかったし、今回は男の子を主人公にした方がテーマ的によりアブノーマルで面白いと思った」と彼女は語る。
アザリロヴィック作品には、観客にどこか後ろめたさを感じさせるような退廃的な雰囲気がある。「もちろん罪悪感を抱くことは全くないんですけど」と笑う監督は、「観客を魅了したいと思う反面、不快さを感じてもらうことで逆にカタルシスを感じてもらいたいとも思っている。人生には、ものすごく美しいものが怖い、というような二面性が必ず潜んでいるものだと思うし、それこそがわたしが表現したいものだから」と説明。そのルーツとして「わたしが若い頃に影響を受けた監督は、(『サスペリア』などの)ダリオ・アルジェント。彼の映画はものすごく美しく、かつ怖いという二面性がある」と語った。
パートナーであるギャスパーの作品も含め、関わった映画は賛否両論にさらされることも多い。「結果としてそうなってしまうというだけなんだけど」と笑った監督は、「わたしが表現したいものを表現した時に、その世界にどっぷりと浸ってくれる人もいれば、全く受け入れない人がいるのも事実だし、それはそういうものだと思うしかない」とコメント。だがそんな世間の風潮とは裏腹に、彼女の素顔は、文学少女がそのまま大人になったような非常に穏やかなものだ。本人は「確かにイメージと違うとはよく言われますけど、それが本当にわたしの素顔かどうかはわかりませんよ」といたずらっぽい笑顔を見せた。
「もちろんストーリーをわかりやすいものにしたり、編集を工夫したり、世間に受け入れられるような努力はしているんですよ」という監督。「いたずらに人にショックを与えたいとか、そういうことを求めているわけではなく、一緒に手をとりあって、この不可思議な世界を探検しましょうと。そういう気持ちなんです。ただ、後ろを振り向いたら誰もいなかったということもあるんですけどね」と笑いつつ、「でも何人かは一緒にいてくれるので」と満足げな顔を見せた。(取材・文:壬生智裕)
映画『エヴォリューション』は11月26日より渋谷アップリンク、新宿シネマカリテほか全国順次公開