自主制作映画の上映会が花盛り!内輪の盛り上がりだけで終わらせないためには?
デジタル機材の発達で誰もが気軽に映画が制作できるようになったこともあり、近年、「自主制作映画」をプログラムの中心に据える映画祭が次々に生まれている。そんな現状を踏まえ、23日に渋谷の映画美学校で「私たちはなぜ“自主(制作)映画”を上映するのか。」と題したシンポジウムが行われた。
森田芳光や大森一樹など、自主制作で話題を集め、商業映画にステップアップする映画監督は8ミリの時代から数多くいたが、デジタル時代の近年は、どのようになっているのか。シンポジウムには、菅原睦子氏(ショートピース!仙台短篇映画祭実行委員長)、鶴岡明史氏(ちば映画祭実行委員会)、直井卓俊氏(スポッテッドプロダクションズ代表/MOOSIC LAB主宰)、宮崎善文氏(松本CINEMAセレクト代表理事)、沢村敏氏(東京テアトル映像事業部編成担当)らが参加し、上映者の視点から見た、自主制作映画の現状と可能性について語り合った。
近年の自主制作映画のシーンで成功した例として、直井氏が主宰する「MOOSIC LAB」で『おとぎ話みたい』がグランプリを取った山戸結希監督の話に。「『おとぎ話みたい』はテアトル新宿でもレイトショーで全日立ち見だった。普通なら上映期間を延ばしたり、他の劇場でやろうと思うのですが、彼女は2週間で上映はやめると決断した。そのことで彼女の作品が伝説化させることになった」と解説する沢村氏は、「そんな山戸監督がギャガの資本で『溺れるナイフ』を撮ってヒットを飛ばした。そういう成功事例もありますし、作り手の希望にもなる」と付け加えた。
沢村氏は「自主制作映画も単館系映画の範ちゅうに入ると思うのですが」と前置きしつつも、「単館系映画」の市場規模を「100億円程度」ではないかと分析する。「国内全体の興収が約2,000億円なので、およそ5%。これは20人に1人という割合なんですが、とある大学に行った際に『恋人たち』と『百円の恋』を観た人はどれくらいいるか聞いたところ、40人のうち2人。その5%に合致した。僕としてはあの年、かなり頑張った映画だったんですが……」と無念そうに切り出した沢村氏だったが、「しかし5%とはいえ、知っている人が声をあげないと広がらない。だからこそ僕らが楽しむしかない。そこはくじけてはいけないと思う」と語る。
自主制作映画の上映会場は活況を呈しているが、そういった現状はなかなか広く世間には知れ渡っていない。その理由として、配給・劇場などを通さずに、制作者たちが直接、会場を押さえたり、配信で公開する、といった点にあるのでは、という話に。そんな現状について宮崎氏も「観客の層が狭くなっている。そういった情報は僕たちの上映会にも届いていない」と指摘。さらに菅原氏も「SNSって便利だけど、過信しすぎている部分もあるんじゃないでしょうか。告知しても結局は同じ人にしか届いていないようにも感じる。SNSがなかった時代は、足を使って告知したり、マスコミに電話をかけたりしていましたんですが」と付け加えた。
さらに沢村氏が「確かにそういうやり方もありだと思います。でも今日の参加者には映画を見せるプロがいる。せっかくこういう人たちもいるので、そこで自己完結せずにわれわれを巻き込んでいただきたい。せっかく作り手が増えているので、ここにいる人たちを活用してステップアップしてもらわないと、このシーンは先に進まずに腐ってしまうのではないかと危惧しています」とコメント。
さらに直井氏は「最近、『MOOSIC LAB』に参加する監督もセミプロになりがちなので、えたいの知れない人に出会いたい。ここは就職活動の場ではないので。それから最近の若い監督はお金がかかるからと地方の上映に行かないんですよね。『SR サイタマノラッパー』の入江悠監督は、有名になればなるほど(地方で上映されるので旅費で)赤字になると言っていましたけど、彼はきちんと地方にも行ったんですよね。東京で満員の上映会ばかりじゃなく、地方ではどういう状況で上映されているのか体験した方がいい。車社会で駅から歩いていけない劇場もあるし、スタッフがいなくて、もぎりの方が司会もやる劇場もあったり、カルチャーショックを受けるから。今日集まった方もそうですが、映画館の支配人ってどうかしている人が多いんですよ。そういう人に出会ってほしい」と作り手にエールを送った。(取材・文:壬生智裕)