残虐な拷問、南北問題…韓国の異端児ギドクが“痛さ”にこだわるワケ
映画『The NET 網に囚われた男』のプロモーションで来日した韓国の鬼才キム・ギドク監督が、自身のフィルモグラフィーにおいて、精神的だけでなく、肉体的にも“痛い”映画を撮り続ける理由について語った。
【動画】南北問題をテーマにしたキム・ギドク監督の新作は壮絶…!
『受取人不明』、『コースト・ガード』(ともに2001・日本劇場未公開)など監督作のほか、プロデューサーや脚本家として参加した『プンサンケ』(2011)、『レッド・ファミリー』(2013)など定期的に“南北問題”をテーマにした作品を撮ってきたギドク監督。ささいな事故で国境を越えたため、理不尽な状況に立たされる北朝鮮の漁師を描いた最新作『The NET 網に囚われた男』では劇中、スパイ容疑で韓国の警察に拘束された主人公が残忍な尋問を受けるシーンが登場する。
「これまでも、『嘆きのピエタ』(2012)や『メビウス』(2013)などで肉体的苦痛を描いてきましたが、それは軍隊や警察署でわたし自身が体験した過去の実体験が元になっている」と語る監督。その理由は「実際に自分が感じたことや被(こうむ)ったこと、または相手にしてしまったことを映画の中に投影することで“苦痛とは?”という疑問を自分や観客に投げかけられると思っているから」とのこと。
つまり、“自虐と被虐と加虐”こそが彼が暴力描写を描き続ける理由。「誰でも自分の成長期、もしくは生きていくうえで、どこかで苦痛を受けたり他人に苦痛を与えているからこそ、この感情は共有できる」とする自信は、ヨーロッパを中心に世界の映画ファンを魅了しているゆえだろう。とはいえ、「ファンの共感を得たり感情を維持するために、それだけをあえて意識したり計算することもない」と強調する。
そのときに関心を持った社会的テーマの映画を撮ることによって苦痛だけでなく、さまざまな疑問の回答を見いだそうとしているギドク監督。これまで自身が抱いた疑問を作品に投影した結果、解消できたことはあったのか? という質問に対しては「これからも疑問が生じるし、間違いを気づかされることもある。人生のように、終わりなき葛藤の繰り返しだ」と、実に哲学的。そんななか、その描写やテーマから検閲を通過できず、これまで正式な劇場公開に至らなかった中国で、新作『フー・イズ・ゴッド?(原題)/ Who Is God』を撮ることが決定。「それもこれも、違法の海賊版DVDが広まったおかげ(笑)」と、笑顔で答える鬼才の今後の暴れっぷりに期待が高まる。(取材・文:くれい響)
映画『The NET 網に囚われた男』は、1月7日より新宿シネマカリテほか全国順次公開