映像を一切見ずに遺された音楽…『荒野の七人』リメイク版、名作曲家との感動秘話
黒澤明の傑作『七人の侍』と同作をリメイクした『荒野の七人』を原案にしたアクション大作『マグニフィセント・セブン』でメガホンを取ったアントワーン・フークア監督が、本作が真の遺作となった名作曲家ジェームズ・ホーナーさんとの知られざる秘話を明かした。
2015年6月、小型飛行機の墜落事故で亡くなったジェームズさん。名作『タイタニック』ではアカデミー賞作曲賞などを受賞し、主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」は世界的大ヒットを記録したほか、『アメイジング・スパイダーマン』『アバター』『ビューティフル・マインド』といった数多くの映画音楽を手掛けてきた。そんなジェームズさんが本作の音楽を担当することになった背景には、フークア監督との熱い友情があったのだ。
『荒野の七人』の音楽がとても印象的だっただけに、本作でも音楽が重要視されることは想像に難くない。「この映画を作った理由の一つがジェームズなんだ」と切り出すフークア監督。それは、本作の前にタッグを組んだ『サウスポー』(2015)製作時のことだったという。「『サウスポー』のスコアを聴きにジェームズの家に行ったんだ。当時は、(『マグニフィセント・セブン』のキャスト)7人を揃えるのが大変で、この映画を軌道に乗せるのに苦労していた。今となってはとんとん拍子に進んだように聞こえるけど、実際には、スケジュールのことや予算のことでいろいろ苦労したんだ」。
「彼の家に行った日は、落ち込んでいてね」。そう振り返るフークア監督。カラバサスにあるジェームズさんのスタジオに向かおうという時に、それを察したジェームズさんが外で立ち止まって「大丈夫か?」と声をかけてくれたそうで、フークア監督が「大丈夫。ただ、映画を軌道に乗せるのにちょっと苦労していてね」と思わず吐露すると、山のすぐそばに住んでいたというジェームズさんはこう言葉をかけてくれたんだとか。「昔は、ここをよく馬に乗って通っていったもんだよ。ここでよく西部劇の撮影をやっていたんだ。君とデンゼルが『荒野の七人』を作るなんて、アントワーン、それは歴史的な作品になる。絶対に作るべきだよ。これを逃したら、おそらくもう一生西部劇を作るチャンスはやってこないぞ」。
その言葉をきっかけに、フークア監督がジェームズさんを本作に誘うと、「『金のことは心配するな。やるよ』と言ってくれた。まるで、『なに泣きごとを言っているんだ、何とかしろよ。『荒野の七人』だぞ。少年の夢じゃないか』って言われたような気がしたよ」。しかし、突然届いた訃報。「ジェームズが亡くなったとき、僕はバトンルージュでこの映画を作っていたんだ。彼のマネジャーであり、この映画を完成させてくれたサイモン(・フラングレン)が、『ジェームズが君にプレゼントを残していったよ』と言ってきた。ジェームズの家に行ったとき、いろいろなおもちゃがあるのを見て、うちの子どもが見たら喜ぶだろうなという話をしたから、そういうプレゼントだと思っていたんだ」。
しかしそのプレゼントは想像を超えるものだった。「ジェームズは君を驚かせようと思って、脚本を基に曲を作っていたんだよ」と、ジェームズさんと37年間も一緒に仕事をしてきた作曲家たちがそのプレゼントを届けにやってきたそう。ジェームズさんの遺した曲は全部で7曲。「びっくりしたよ。ちゃんと映画の中で使っているよ。ジェームズのスタッフの一人として何度も彼と仕事をしてきたサイモンが、仕上げてくれた」。
その音楽を初めて聞いて、「すごく感動したし圧倒された」と語るフークア監督は、「厳しい撮影だったから、現場にその音楽を持っていったんだ。スタッフが一生懸命働いているところへ大きなスピーカーを持ちこんで、昼休みに、君たちに聞かせたいものがあると言って、かけたんだ。彼らも圧倒されていたよ」と裏話も披露しつつ、「終わった後、これが『マグニフィセント・セブン』の音楽で、ジェームズ・ホーナーの遺作だと伝えた。ジェームズは、映像を1フレームも見ずに、脚本から曲を書きあげたんだ。天才だよ」と亡き友に賛辞を贈っていた。(編集部・石神恵美子)
映画『マグニフィセント・セブン』は1月27日全国公開