実力派女優・筒井真理子、いま日活ロマンポルノに出た理由
30年以上のキャリアを持ち、出演作は枚挙にいとまがない女優・筒井真理子。昨年公開され、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞に輝いた『淵に立つ』では、その演技力が高く評価され、多くの主演女優賞を受賞した。そんな彼女が、日活ロマンポルノ45周年を記念したロマンポルノリブートプロジェクト作品『アンチポルノ』(園子温監督)で鬼気迫る演技と共に、大胆なヌードを披露。実力派女優として確固たる地位を築いている筒井が、いまロマンポルノに出演した理由を語った。
本作出演のきっかけは「ぜひ作品に」という園監督からのオファーだった。台本を読んだ筒井は「久しぶりに園さんの世界観が全開で、本気の叫びを感じたんです」とその印象を語る。しかし作品はロマンポルノ。肌を出すことについて考えるところはあったが、「『わたしでも大丈夫ですか?』ってびっくりしましたが、この作品を役者として引き受ける覚悟がないというのはありえないだろう」とすでに気持ちは固まっていたという。
それでも「全くためらいはなかったというのはうそになってしまう」と心情を告白した筒井だったが、撮影終了後に日活ロマンポルノを代表する女優・白川和子と交わした言葉で、そんな思いは吹き飛んだ。
「白川さんとは、昔、母娘を演じさせていただいて、テレビ番組でも一緒に旅行に行ったりしていたんです。当時の日本という社会で、裸になることは勇気がいること。ロマンポルノの企画が立ち上がり、第1作目に白川さんが出演されたときは、すごく不安だったし、同窓会にも出られなかったと話されていました。それが45年たってこうしてリブートされ、色々な作品に影響を与えるシリーズとなった。『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』(NHK BSプレミアム)でもロマンポルノが特集を組まれて、『一滴の雫が大河になった』という白川さんの言葉にとても感銘を受けたんです。そして『真理子ちゃんが出てくれるのが嬉しかった』って仰ってくれたんです」。
筒井の心を突き動かした台本。中でも「最後の長セリフ。女優としてこれが言いたいと思ったから引き受けたと言っても過言ではないんです」と告白する。作品終了間際、約1分間に渡って「女性の自由とはなにか」について熱弁をふるうシーンだ。しかし「リハーサルで『そのシーンをカットしようか?』って園監督が言ったんです。『わたしはこのセリフが言いたいから覚悟を決めたのに!』とさすがに焦りました。もう降ろされてもいいという思いで、園監督に『カットしないでください』と直訴しました」。
しかし、「セリフでは“女性”となっていますが、私は男性も含めてすべての人への投げ掛けだと思いました」と言うだけに「自分がこんなセリフを言ってもいいのか」という自問があったという。長いキャリアを積んでいる筒井でも「なかなか腹に落ちてこなくて、不安でした。撮影所にある鳥居にお参りして『浮遊している魂に手伝って』という気持ちだった」と自身を追い詰めた。
そんな強い思いが宿ったシーンは、観ている側を圧倒するような“強さ”に仕上がった。ストイックに役柄に向き合う筒井のスタンス。「もともと追い込まれたい願望というのはあるかもしれませんね。それこそ(筒井が以前所属していた劇団の)第三舞台では死んでしまいたいぐらいダメ出しされましたが、年を経てくると、何も言われなくなるんです。今回は特に『このセリフがちゃんと言えないようでは、女優やっている資格はない』って思うぐらいに追い込みました」。
1994年に公開された『男ともだち』という作品で一度、肌を出したことがあったという筒井。「オブラートに包んでもらっていたものがなくなり、すっぴんで歩く感じ」とその感覚を表現すると「格好つけてもしかたがない。本当のことしか伝わらないんだということを実感しました」と本作に出演したことで、改めて女優という仕事に向き合えたという。実力派女優が極限まで自身を追い込んで爆発させた本作は、観ている人にどんな心の振動を与えるのだろうか。(取材・文・写真:磯部正和)
映画『アンチポルノ』は1月28日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開