この人なしで名作は成り立たなかった…巨匠スタンリー・キューブリックの右腕とは
故スタンリー・キューブリック監督の右腕として知られるエミリオ・ダレッサンドロを追ったドキュメンタリー映画『エス・イズ・フォー・スタンリー(原題) / S Is For Stanley』について、アレックス・インファセリ監督が、1月27日(現地時間)ニューヨークのジェームズ・ホテルで語った。
元レーシングドライバーだったエミリオは、1960年代後半からキューブリック監督のお抱え運転手になる。その後彼は、キューブリック監督の右腕として、撮影に使われる小道具から大道具の発注などさまざまな要求に従い、30年以上にわたってキューブリック作品を支える唯一無二の存在になっていった。
エミリオがキューブリック監督のもとで働くまでの経緯について、アレックス監督は「実は最初、彼はキューブリックのことを知らなかった。それまで彼は、映画界とは全く違った世界にいたからね。それに、その頃のキューブリックは、アート映画として評価されていても、興行面では成功を収めていなかったため、ディープな映画ファン以外の知名度はそこそこだったんだ。当初エミリオは、キューブリックのもとでお金を稼いで、再びカーレースに参加するつもりでいた」と明かした。その後、エミリオはキューブリック監督の要求に応えるため、ドライバーの道を諦めることになる。
キューブリック監督が要求した詳細な小道具、大道具、衣装は、エミリオによる助力が大きかった。「キューブリックのエミリオに対する信頼は計り知れない。実際にキューブリックがエミリオに宛てた手紙やメモを全て読んでみて、それが30年にもわたる彼らの関係を物語っていた。エミリオが徐々にキューブリック作品に関わっていく場面が読み取れて、僕はそれに魅了されたよ。もし彼がいなかったら、キューブリックが残した作品はかなり変わっていたかもしれない」。
キューブリック監督の回顧展を世界中で開催できたのも、エミリオの力によるところが大きかったという。そんなエミリオについて、アレックス監督は「彼は、(キューブリックに関連するものは)何も捨てなかった。彼が、撮影後に何箱もの小道具を収集していなければ、回顧展は成り立たなかった」と称賛する。しかし、仕事によりエミリオは家族と疎遠になる時期もあったようで、「キューブリックは高額なお金をエミリオに支払い、ある意味彼の人生も支配していた。それは仕事だけでなく、プライベートもそうだった」と明かした。(取材・文:細木信宏/Nobuhiro Hosoki)