25年ぶりの上映!『クー嶺街少年殺人事件』名作のワケ
4Kレストア・デジタルリマスター版として25年ぶりに日本公開される伝説の傑作『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』が、世界中のクリエイターや多くの映画ファンを魅了する“不朽の名作”と呼ばれる理由を、本作の撮影現場に遭遇した行定勲監督が語った。
1990年、図らずも台湾の撮影現場に足を踏み入れていた、若かりしころの行定監督。翌1991年、完成作を第4回東京国際映画祭で観たときの印象を、「震えるほどの、とんでもない映画だった」と振り返る。さらに「決して教科書的な映画ではないが、ほとんどの映画監督が撮ることができない一本。映画づくりに携わる人間として、この作品を観ている人と、観ていない人とでは明らかに違うんです」とまで断言する。
本作の素晴らしさを具体的に聞くと、第一に「闇が撮れていること」を指摘。「例えば、仲間の仇をとるため、敵対する組織のリーダーを襲撃するシーン。闇を感じながら、ちゃんと被写体が見えているし、そこに潜んでいたり、視覚的に見えるものに嘘がないんですよ。さらに、被写体の距離感や声など、そこに付随する音響の素晴らしさ。あのシーンこそが映画だし、これは映画館じゃないと体感できない!」と、解像度の低いビデオテープでは、本作のすべてを再現できていなかったことも指摘する。
そのほかの思い入れのあるシーンについては「ヒロインの小明(シャオミン)が誤って実弾を発砲してしまうシーンや、大人の事情が垣間見える保健室のシーン。あと、王茂(ワンマオ)がエルヴィス・プレスリーの「Are You Lonesome Tonight」を歌うシーンなど、上げたらキリがありませんね(笑)。ちなみに、ブラスバンドの演奏が突然止まるシーンは、僕が撮った短編『うつくしいひと』(2016)で、まるパクリしたぐらいですから(笑)」と意外なエピソードも飛び出した。
「僕自身がヨーロッパよりも、アジア(の映画)にこだわりがあるのは、明らかにこの映画との出会いや影響が大きいんです」と語る一方で、「僕はこんなことを語るに相応しくない人間だと思っているし、どこかおこがましい。それぐらい『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』はスゴい映画なんです」と熱く語る行定監督。そこまで言わしめた、光と闇が織り成す3時間56分の映像体験を25年ぶりに堪能できることとなった。(取材・文:くれい響)
映画『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』は3月11日より角川シネマ有楽町ほか全国順次公開