「野武士のグルメ」久住昌之、勝負のない飯に苦言 良質ドラマを生む秘訣
「漫画版 野武士のグルメ」が竹中直人、玉山鉄二をキャストに迎え、Netflixで実写ドラマ化された。定年退職後、時間とお金を自由に使えるようになった主人公の香住武が、自由気ままに、自分の好きなものを好きなように「野武士」のごとく食べていく姿がシュールな映像によって描き出されている本作の原作者・久住昌之が、作品の魅力や昨今のグルメブームについて語った。
原作・久住昌之/絵・谷口ジローの漫画「孤独のグルメ」は、2012年にテレビドラマ化されると、スペシャルを含むseason6まで制作される人気番組となったが、「(『孤独のグルメ』の主人公)五郎の時は、すごくいっぱい食べられる人というのに憧れて描いたのですが、『野武士のグルメ』では、自分は気が小さい人間なので、野武士のように誰に臆することもなく食いたければ食えばいいんじゃないかという憧れがあったんです」と本作のコンセプトを語る。
これまで数々の作品が実写化されているが「基本的には映像は監督のものだと思っているので、原作者の立場から口は出さない」というスタンス。「もともと、原作やって、漫画化するときには、絵コンテを描くときもあれば文章だけのこともありますが、渡してしまえばあとは好きに描いてくれって感じ。別物として楽しんでいます」と明かす。
そのうえで本作に関しては「竹中さんは昔から知っていて、いつか一緒に……とは思っていたんです。すごく乗ってやってくれているし、なにより玉山さんの“野武士”が最高ですよね。2人が楽しんでくれているのが伝わってくるし、真面目におかしなことしてくれているのがとてもいいです」と賞賛した。
「孤独のグルメ」人気で“グルメ”という言葉が大きく取り扱われることも多くなったが「『孤独のグルメ』も『野武士のグルメ』も、いま流行っているグルメ番組とは違いますよね。僕はグルメ的な食べ物の取り扱い方はしていません。今のグルメ番組って食べ物のネタなんですよね。誰がどういう風に食べるか、例えば“女子一人メシ”みたいな……。僕はネタを考えているわけではなく、一つ一つ地味なドラマを作っているんです」とポリシーを語る久住。
さらに、昨今の“勝負に出ない”世の中にも苦言を呈する。「今の時代って効率を最優先しているので面白くない。お店を探すことに関しても、ネットで下調べして外れないように保険をかけますよね。僕はそういうことはしません。この場所は行ったことがないから探してみようと歩いて、このお店で漫画が描けるかなって迷いながら勝負に出てお店に入るんです。そこでメニューを見て、何を選ぶべきか考え、注文する。もちろん来た料理が美味しくないときもあるけれど、そういう失敗も大きな体験になるし、面白みもあるんですよね」。
「とにかくお腹を減らして、一人の客としてお店に入って、考えて食べて……。想像力豊かに、しっかり頭を使うこと」と「○○のグルメ」執筆の基本を述べる久住。このスタンスが長く愛され続ける作品を世に送り出している秘訣なのかと問うと「僕も20代から30、40、50代と年を経て、ものの見方は変わったけれど、面白がるところは同じ」とブレない大切さを語っていた。(取材・文・写真:磯部正和)
「野武士のグルメ」はNetflixで独占配信中