北朝鮮から中国に売られた女性に3年密着!監督が女性の近況明かす - 第12回大阪アジアン映画祭
このほど開催された第12回大阪アジアン映画祭で、昨年のカンヌ国際映画祭ACID部門(フランス独立映画配給協会主催)で上映されて話題を呼んだドキュメンタリー映画『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』(フランス・韓国)が日本初上映され、ユン・ジェホ監督がQ&Aを行った。
本作の主人公は、2003年、37歳の時に北朝鮮から中国の貧しい農民一家に売り飛ばされてしまったマダム・ベー。彼女は中国人の夫とその両親を養い、北朝鮮に残した家族に仕送りをするために、脱北ブローカーや麻薬の密売に手を染めていた。やがて北朝鮮に残してきた息子たちの将来を案じた彼女は、自らの手で息子たちを脱北させ、一緒に韓国へ渡るという危険な計画を実行することとなる……。
カメラはマダム・ベーが韓国行きを決めてからの3年間に密着。中国北部から大陸を縦断し、ミャンマーとラオスの国境沿いを抜けながらタイ・バンコクにある難民収容所に至るまでに同行する。食事を摂る間もなくひたすら車に揺られ、ある時はトラックの荷台に隠れ、またある時は炎天下の中、林の中を徒歩で進む。命からがらの緊迫感あふれる映像に引き込まれずにはいられない。
ユン監督はもともと、脚本執筆のリサーチのために人を介してマダム・ベーを紹介されたという。なので本作は、記録用にiPhoneや小型カメラで撮影した映像で構成されている。ユン監督は「映像が乱れているのはご容赦いただきたい。取材の時は彼女に対して先入観を持たないよう、彼女がどのような仕事に関わっていようと尊重しようと思いました」と当時を振り返った。
マダム・ベーは、すでに韓国に家族が渡っていたこともあって、タイから比較的スムーズに韓国入国が許可された。そして彼女の安全が保証された段階で、本作の公表に至った。もっとも韓国で幸せな暮らしが待っていたかといえばそうではなく、家族はスパイの嫌疑をかけられて国家情報員の厳しい取り調べを受けたという。このあたりは、キム・ギドク監督『The NET 網に囚われた男』(2016)が詳しい。
一度離れた家族の絆を取り戻すのは困難だったようで、ユン監督いわく「マダム・ベーは現在、ソウルから離れた京畿道(キョンギド)でバーを経営しながら中国と韓国の2つの家族に仕送りを送り、子供たちの成長を見守っている」という。この貴重な脱北者の記録は初夏に、東京・イメージフォーラムなどで順次全国公開が決まっている。金正男氏殺害事件以降、北朝鮮の市民をとらえたドキュメンタリー映画『太陽の下で -真実の北朝鮮-』(公開中)が動員を伸ばしているという。『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』も高い関心を呼びそうだ。(取材・文:中山治美)