お笑い芸人、バカリズムが脚本家に進出したワケ
キュートな風貌と相反するシニカルでシュールな芸風で人気のお笑い芸人・バカリズム。近年は連続テレビドラマ「素敵な選TAXI(センタクシー)」(2014)、「黒い十人の女」(2016)などで脚本家としての地位も確立させたが、芸人がなぜ脚本を書くのか? 素朴な疑問に「ちやほやされたいから」と笑って答えるバカリズムだが、そこにはもてはやされたい欲求だけではない、ある企みも秘められていた。
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不倫騒動に揺らいだ昨年、「不倫です。皆さんが大好物の。(10股)」というセンセーショナルなキャッチコピーで始まった連続ドラマ「黒い十人の女」。妻がありながら、成海璃子、水野美紀、トリンドル玲奈らが演じる9人の女と不倫しているテレビプロデューサー・風松吉(船越英一郎)が、妻や愛人たちに殺害を企てられるというサスペンスコメディーは、絶妙な会話劇と女優陣の役へのハマりぶりで話題を集めた。
名匠・市川崑監督の同名映画のリメイクでもあったが、バカリズムは「“昔のオシャレな映画”というイメージの作品に関われることは、(自分が)いい見え方をするなと思いました」とニヤリ。プレッシャーは感じず、自分らしく自由に脚色したそうで、仕上がりについては「4人の監督それぞれで演出や(脚本の)解釈が微妙に違うので、新鮮で面白かったです」と、「脚本を渡したら、あとは監督と演者のもの」という脚本家らしい客観的な目線で感想を寄せた。
脚本家デビューは、オムニバスドラマ「世にも奇妙な物語 2012 秋の特別編」の一編「来世不動産」で、自身が出版した同名短編小説を読んだ番組スタッフからの依頼で執筆。これがきっかけで、竹野内豊主演の連ドラ「素敵な選TAXI」の仕事が舞い込むと、最初は初めてのことに「どうやればいいのか全くわからない」と戸惑うも「世間は騒ぐだろうし、楽しそうだし」と快諾し、狙い通りの体験をした。
それ以降、脚本家活動も増えたバカリズムは、作品によって趣を変えて自分らしい癖がつかないよう心掛け、「面白いものを書きたい」と意気込むが、脚本家を続ける原動力はあくまでも「ちやほやされたい。多才と言われたい」。そもそも連続ドラマの脚本に挑戦したのは、それをしている芸人がいなかったからで、「連ドラの脚本を書くことは(自身の)付加価値として大きい。誰かがやっていたら僕はやらなかったです」と述懐。“芸人・バカリズム”がどう評価されるかが何よりも重要なのだ。
その結果、目論見通り付加価値をつけた芸人へのオファーは止まず、「365日ずっと(脚本などの)宿題があって、(書くための)エンジンがかかりっぱなし」の状態だという。「自分から発信したいテーマやメッセージはないし、僕は芸人なので、脚本家になったつもりもない」と断言するバカリズムだが、視聴者が観たいものも芸人であるバカリズムだからこそ生まれる作品に他ならない。今でもまだ物足りないという“ちやほや”を求めて、これからも肩の力を抜いて楽しめる、“ただ面白い”作品を作り続けてほしい。(取材・文:錦怜那)
「黒い十人の女」DVD-BOXは3月31日発売(レンタル同時リリース)