高橋一生&大友啓史監督『3月のライオン』癒やしの“屋上メシ”を語る
羽海野チカのベストセラー漫画を2部作で実写化した青春映画『3月のライオン』(前編:公開中、後編:4月22日公開)の大友啓史監督と、神木隆之介演じる17歳のプロ棋士を見守る高校の担任教師・林田高志を好演した高橋一生が、漫画を実写化するうえでのこだわり、そして作品の“オアシス”でもある零と林田の屋上シーンの裏側を明かした。
本作は、幼いころに両親と妹を亡くした天涯孤独の少年・零を主人公にした青春映画。プロ棋士としての戦い、育ての親である幸田(豊川悦司)一家との複雑な関係、家を出てから出会った川本家3姉妹との絆という複数のドラマから成る物語だけに実写化のハードルは高いと思われたが、大友監督は意外にも「撮影自体はそんなには難しくはなかった」と回答。これまで手掛けてきた『るろうに剣心』3部作(2012・2014)や『秘密 THE TOP SECRET』(2016)、『ミュージアム』(2016)などの漫画の実写化作品とは異なり、「今回はドラマというジャンルなので、NHK時代で養ってきたものに戻る、いわば原点回帰のようなもの。だから撮影自体は、芝居をじっくり撮るっていうことに集中すればよかったので、そんなに難しいものではありませんでしたね」という。肝心だったのは零のマンションをはじめとする原作のイメージに近いロケ探しや、棋士を演じる俳優にいかにリアリティーを持たせるかだったという。神木をはじめ棋士を演じる俳優には「ペン、箸を握るような感覚で小さい頃から駒を握っている」感じにたどり着くこと、「感情を表にグッと出すよりは腹の中に据えてもらって、にじみ出てくる芝居」を狙った。
高橋演じる教師・林田は、零にとって友人のいない学校で唯一の拠り所であり、彼と過ごす屋上での時間は零が「自由」になれる数少ないひとときだ。そんな林田を演じるにあたって高橋は、原作を読んだうえで「自分がいかに林田に近づけるかというところから意識しました。原作もの、特に漫画の場合はやっぱりビジュアルから入らないと、原作のファンを裏切ることになると思っていて。その時点で(キャラのイメージと)差が出てしまうのって怖いと思うんです」と切り出す。そのうえで、「僕は、いかに自分が納得して演じ、キャラクターに説得力をもたせられるかということに注力し、とにかくそこに『いる』ことだけを意識してやっていました」と振り返る。
屋上で、高橋と神木から芝居を引き出すのに効果的だったのがロケーション。大友監督はその理由を「(高校の)屋上は随分探したんですよ。今は四方囲まれた屋上ばかりで。林田先生が後編で『いい風吹くよな』って言っているんだけど、じゃないと零君も屋上に行かないと思うんだよね」と説明。「抜けのある屋上」は、林田と零が肩書きを取っ払って気持ちよく過ごすためにも不可欠だったと言い、「そこを用意さえすれば、彼らは場の雰囲気を感じて、しっかり芝居をしてくれますからね」と改めてロケの重要性を強調した。
屋上で林田はいつもラーメンを食べている設定だが、撮影時は監督のこだわりから多くのテイクを重ね、「次から次へと無尽蔵に麺が出てきた」という高橋。華奢な体形だが実は大食漢だと言い、基本は自炊だが外食するときはいつも「ラーメン」なのだとか。「何系が好きなの?」と突っ込む大友監督に、「今は我慢しているんですけれど、がっつり二郎系が好きなんですよ」とラーメントークを繰り広げるなど、初のタッグにしてすっかり打ち解けている様子の2人。劇中、度々登場する林田と零の屋上のシーンには、そんな2人の相互理解、綿密なビジョンが生きた、すがすがしい名シーンとなっている。(取材・文:編集部 石井百合子)