工藤阿須加、デビュー後5年の現在
映画『ちょっと今から仕事やめてくる』で、ブラック企業で追い詰められていく新卒社員にふんし、迫真の演技を披露している工藤阿須加。デビューから5年、「人が一年でやることを半年でこなす」を目標に前進し続けてきたという彼が、転機になったテレビドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」(2014)から今日に至るまでの歩みを振り返った。
工藤が演じるのは、厳しいノルマを課せられる上に上司のパワハラに遭い、生真面目な性格ゆえに追い詰められていく青山隆。連夜の残業に疲れ果て、ある晩フラフラと駅のホームから転落しそうになったところを、“ヤマモト”と名乗る自称・小学校時代の友達に助けられる。妙に明るくポジティブな彼に強引に誘われながら、青山は明るさを取り戻していくが……。
ヤマモトを演じた福士蒼汰と共に、5か月にわたって、忙しい中で日程を合わせてリハーサルを重ねた。「役と向き合う時間がこれほど長かったのは初めて。成島(出)監督と演技指導の秦秀明先生に、基本中の基本を徹底して教えていただき、作品に対する思い入れの深さも、アプローチの仕方も大分変わりました」と、効果の大きさを認める。
中でも「秦先生が毎回、凝り固まったものを全て削いでゼロの状態に戻して下さるんです。すると自然に、相手の言葉に反応するようになれる。その“何もしないで自然とそこに居る、ただ反応する”状態になれる」ことが、最大の収穫と明かす。さらに成島監督の「下手でもいいからストレートな芝居をしろ。大谷翔平(北海道日本ハムファイターズ)の165キロ(の速球)に皆が歓声を上げるのは、速いからだけじゃない。本当にいいストレートだから心に来るんだ。本当にいいストレートが投げられて初めて、変化球が効く」という言葉に、目からうろこが落ちたようだ。
そんな工藤は自身のターニングポイントに、テレビドラマ「ルーズヴェルト・ゲーム」を挙げる。「大きな役をいただいたのは初めてでしたし、そこから仕事をいただけるようになりました。それからは、一作一作全てが節目。さまざまな作品と出会い、関わった方からたくさんの言葉をいただき、まだ自分のものにできていないことが多くあって……。でも、無理に自分のものにしようとは思っていません」とキッパリ。
一度は反対されながら、20歳のとき父親から「男が一人で決めたことは、自分で尻拭いするんだぞ」という言葉と共に背中を押されて飛び込んだ俳優の道に、「この道に進んで良かった!」と一点の曇りもなく打ち込んでいる。「20歳のデビューは遅い始まり。どうしたら他の方に追いつき、競えるようになるのか。どう自分の色や個性を出せるか。人が一年でやることを、どうしたら半年でできるかを常に考えてきた」と真剣な表情で振り返る。
「たくさん試行錯誤を繰り返すだけ」と笑いながら、「成島監督に“お前たち2人は本当に、映画人としてやっていける魅力を持っている”と言っていただいた、その気持ちに応えたい。好きで続けているから天職なのではなく、(自分で)天職にする、ですね」と、爽やかな笑顔でしめくくった。初々しさと矜持を兼ね備え、短期間で着実にキャリアを積み重ねている工藤の快進撃に注目したい。(取材・文:折田千鶴子)
映画『ちょっと今から仕事やめてくる』は5月27日より全国公開