『少年は残酷な弓を射る』監督が『96時間』を撮るとこうなる!ハンマー振るうアンチヒーローが誕生
第70回カンヌ国際映画祭
現地時間27日、第70回カンヌ国際映画祭で『少年は残酷な弓を射る』のリン・ラムジー監督がメガホンを撮ったスリラー映画『ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア(原題) / You Were Never Really Here』の公式会見が行われ、すっかり意気投合した様子のラムジー監督と主演のホアキン・フェニックス(『her/世界でひとつの彼女』など)が楽しげに撮影を振り返った。
アメリカ人作家ジョナサン・エイムズの同名小説を映画化した本作の主人公は、売春のために人身売買される少女たちを助け、その報酬で暮らしている退役軍人のジョー(ホアキン)。ある日、ニーナ(エカテリーナ・サムソノフ)という少女を救い出すが、それがきっかけで危険な陰謀に巻き込まれていく。上映時間95分という短さで、虐待を受けて育ったジョーの苦痛に満ちた内面も鮮烈な映像で描写し、アートハウス系のラムジー監督が『96時間』を撮ったらこうなった! という感じの味わいのある良作となっている。
ジョーを美しく鍛え上げられた体ではなく、形の崩れた大きな体で体現したホアキンは「彼は少年時代のトラウマによって、身を守るためにできるだけ強くなることが必要だった。ハリウッド映画に登場するこうしたキャラクターの典型的な体形にしないように気を付け、よろいとして、なるべく大きくしようとした」と役づくりについて語る。
劇中、ジョーが自らビニールを顔にくっつけて息ができないようするシーンがしばしば登場する。これについては「自分を傷つけているようにも見えるが、彼は頭の中の騒音を鎮めようとしているんだ。撮影の前に、リンが、爆発音が収録されたオーディオファイルを送ってきたんだよ。『これが彼の頭の中で鳴っているもの』と言ってね」と説明。これまでも人間のトラウマを描いてきたラムジー監督は「それを通じて、キャラクターの内面を掘り起こそうとしているの。彼らの傷や美しさを」と狙いを明かした。
ジョーをアンチヒーローたらしめているのは、その武器がハンマーということも大きいだろう。彼は売春組織の人間をハンマー1本で血祭りに上げていく。ラムジー監督は「これは小説にあることなの。バカみたいだけど、ハンマーだと静かに入っていて、帰ってくることができる。いつも銃というのは退屈だし、わたしも違った方法でアプローチしてみた」とほほ笑んだ。これが見事に効いている。(編集部・市川遥)
第70回カンヌ国際映画祭は現地時間28日まで開催