「昼顔」の続編が映画になった理由
社会現象的な話題ともなった2014年放送の大ヒットドラマ「昼顔~平日午後3時の恋人たち~」の物語の続編となる『昼顔』の公開を控えた西谷弘監督が、映画化の狙いを明かした。
ドラマ自体の企画は約4年前に遡るが、西谷は「女性同士の対峙や真っ向勝負の本音と生きざまのぶつかり合いを描こうと思った」と振り返る。そこに大人の恋愛を絡めるにあたり、当時はまだ今ほど風当たりが強くなく、アバンチュール的なイメージもあった不倫という枷を持ち込み、「不倫されど純愛」をスローガンに作っていった。ドラマは大きな反響を呼び、西谷としても「感触のいい作品だったので、死なせたくない」との思いがあって、放送終了後に続編の企画が浮上し、「僕としてはこの機会に映画にしてみたいと思った」という。
物語に関しては、同じ役者が全く違う人物を演じる同じテーマの話から、上戸彩の演じたヒロインの紗和が北野とは別の既婚者男性と再び道ならぬ恋に陥るような話まで含め、さまざまなバリエーションを検討した結果、夫と別れて一人で生きていた紗和と、愛し合いながらも紗和と別れて妻・乃里子(伊藤歩)と暮らすことを選んだ北野(斎藤工)の再会とその運命を描く形になった。
時代性に合わせ、劇場版ではまず「奪われる側の痛みをどれだけ紗和に刻みこむか」ということに留意した。さらに、「一つは紗和と北野の二人が目指す至高の愛の証明について、もう一つは絶対に相容れない紗和と乃里子の女同士の業をどこまで追求できるかという二点を核に作り始めました」と的を絞って掘り下げることにした。
フジテレビ所属の西谷は、本作を含めてこれまでに7本の映画を撮っており、それらは自らが演出したドラマの続編的な映画が多いが、そこで西谷が最も心掛けているのは「映画にするからには単独でも観られる独立した作品にする」ということ。それは「もちろん僕自身が映画好きということもありますし、自分が観客側として映画を観る時に、ドラマを観ていることが前提では観る気がしない」との理由がある。
それゆえに、西谷は「躊躇なくキャストも絞るし、演出手法や作品のトーンも変える」という。その実例としては、「テレビドラマの『ガリレオ』(2007)は決めゼリフやポージングを作ってキャッチーにしましたが、(劇場版の)『容疑者Xの献身』(2008)ではそれらを全く使わないようにした」。それは「優劣ではなく、映画は人間同士の深層心理を掘り下げ、リアリティーを持たせたいからです」との意図だった。
そして今回についても西谷は、ドラマ版では「わかりやすい心情説明を入れることで、CMが入ったり、ながら見の方や少し見逃した方も、各場面の感情を思い起こしやすい」との狙いがあった紗和のモノローグを、映画版では極力減らした。「映画というのはスクリーンとじっくり向き合って、どれだけコミュニケーションできるかというものだと思う」との持論からセリフに頼りすぎない演出を心がけたこともあるが、「上戸さんの芝居がどんどん進化しているので、紗和の心情を観客が探りたくなるような表情の芝居を演じているのがわかった」という手応えがあったことを明かした。(取材・文:天本伸一郎)
映画『昼顔』は6月10日より全国公開