福島の仮設住宅で暮らすおばあさんの忘れられない一言…被災地で瀧内公美が感じたこと
笹野高史演じる老人を監禁し、壮絶なバトルを繰り広げる女性を演じた『グレイトフルデッド』で内田英治監督と組んだのをはじめ、『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌監督など、これまで一筋縄ではいかない鬼才監督たちとタッグを組み、存在感を見せつけてきた瀧内公美。彼女が「自分が変わった」と振り返る主演映画『彼女の人生は間違いじゃない』について語った。
今回新たにタッグを組んだのは、『さよなら歌舞伎町』『ヴァイブレータ』などで知られる福島県出身の廣木隆一監督。監督の処女小説を映画化した本作の舞台は、震災から5年がたった福島。瀧内演じるヒロイン・みゆきは今も仮設住宅に暮らし、平日は福島県いわき市の市役所に勤め、週末は高速バスに乗り込み、あるアルバイトのために東京・渋谷に上京する……という物語で、劇中には霊感商法や保証金をパチンコにつぎ込む人々など、ロケハンや撮影中に聞いた実話も盛り込まれている。
自身の役どころについて、「自分のことをさらけ出して、隠してやっちゃだめな役だと思った」と振り返った瀧内。「廣木監督の演出は、『そういうのいらない』と言いながら過剰な演技などを抜いていってくれる。すべてをはぎ取っていってくれるんです。そんな監督に会ったことはなかったし、肩の力が抜けていくのを感じて楽になれた。監督に出会えたことが、わたしにとっては大きな出来事でしたね」と語り、「監督はすごく女性のことを見てくれる人。女性のダメなところなどをみんな見てくれる。自分という一人の人間をすごく見てくれていて、その上でダメでもいいんだよと言ってくれる。そういう人ってなかなかいないと思うんです」と付け加えた。
「福島出身ではないわたしがこの題材を表現することができるのか」と感じていた瀧内は、監督の「これは福島だけの話じゃない」という言葉に背中を押されたと明かす。そんな思いを胸に、瀧内は実際に仮設住宅を訪ねた。「もちろん映画のために聞かなきゃいけないことはある。でも表現者として、人を傷つけてまで聞き出すようなことはしたくはなかった。だからとにかく通い詰めて、その場に馴染(なじ)むことに徹しました」。
そうやって場所に馴染(なじ)んでいった瀧内。あるときの帰り際には、仮設住宅に住むおばあさんから手を握られ「瀧内さん、もう帰っちゃうの? とにかくうそをつかないで生きてくださいね」と言われたことがあったという。「そう言われた時にすごく戦って生きてきているんだなということがヒシヒシと伝わってきたし、いろんなことがあってもすごく真っすぐなんだなと思いました。だから言葉で聞いて答えを求めるんじゃなく、そこで感じたことでみゆきの気持ちに近づけた感じですね」。
プレッシャーと戦い続けた瀧内は、ギリギリまで追い詰められ、スタッフも心配するほどにみるみるやせていった。自分のやっていることが正しいのかも分からない、渋谷という街に飲み込まれそうになりながらも、何とか踏みとどまり、そして福島に帰っていくみゆきに自分を一体化させてみて、「自分の居場所を探しに行くみゆきって本当に強いな」と感じたという。「身体はどんどんやせていくんですけど、撮影が終わった時は気持ちの面では楽になったんです。体重も含めて、元の暮らしに戻るのにはものすごく時間がかかりましたけどね」と語るその顔は、非常に穏やかであった。(取材・文:壬生智裕)
映画『彼女の人生は間違いじゃない』はヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中